第89話 四郷鮎子の隣にて
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言い方をするなら、まるでマリオネットの糸で操られた「死人」の手のようだった。
その手、そして腕を辿るとパラソルの中へと続き、日陰に隠れた少女の顔へと到達する。相変わらずの無表情ではあるが、そこには、脆く、今にも壊れてしまいそうな人形が持っている、ある種の「儚さ」が滲んでいた。
暴走トラック同士の衝突を、エキスパンダーを引くように後ろから引っ張って止める、という無茶苦茶を実現した「新人類の身体」には、あまりにも似つかわしくない表現かも知れない。俺が四郷を見ていて感じたことを、ありのままに所長さんに伝えても、彼女はきっと「一煉寺君たら心配性ねぇ! そんなに神経質なら自分の心配もしてあげたら?」などと笑い飛ばすに決まってる。
だが、俺の目の前にいる「四郷鮎子」という少女の瞳は、あの強大な力を操っていた事実に自ら背いているかのように、今にも折れてしまいそうなか弱さを漂わせていたのだ。それを隠すかのように、丸渕眼鏡をかけ直している姿を見ると、俺の足はどうしても止まってしまう。
彼女はパラソルの下でちょこんと座り、こちらの裾を掴んで、ジッと制止を求める視線を向けている。その手を振り払って救芽井達の方に行けるほど、俺は利口にはなれていないらしい。
「……はぁ」
後で優勝したチームを全員締め上げて、データをシャワー室ごと粉砕してやろう。
俺はその一心で乱入を諦め、四郷の隣に用意されていたもう一つのパラソルの中に入る。
「ここ、いいかな」
「……うん……」
そして四郷の許可を得ると同時に、ドサリと日陰の中へと腰を下ろした。
さて、ビーチバレーは救芽井・矢村チームと久水兄妹チームに分かれて、何やら勝手におっぱじめてるみたいだけど……俺達はどうしようかな。四郷はずっとパラソルの中で本読んでるだけだし……。
「な、なぁ。四郷ってずっとここにいるっぽいけど、泳いだりする気はないのか?」
「……『新人類の身体』は、基本的に泳げない。いろんな機能に搭載スペースが取られてて、防水機構にまで手が回ってないから……」
「あ、あぁそうなのか、スマンスマン」
やべぇ。全然会話が進まねぇ! 何喋ったらいいのかサッパリだ!
ってか、海に入ったらアウトだったのかよ。意外な弱点があったもんだな。……あ。だからあの時、自分で帽子取りに行けなかったのか。なるほどなぁ。
でも、そんなこと俺に喋っていいのか? 一応俺って、商売敵のはずなんですけど……。
「……あ、よく見たらあの時の帽子あるじゃん! 被らないの?」
「……パラソルから出る時しか被らない。また風で飛ばされたら、大変だから……」
そんな時、ふと俺の視界にあの時の白帽子がチラリと映る。セットの白ワンピースこそ今はないけど、よく見たら帽子単体でもなか
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