第85話 四本の腕を持つ少女
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が出てしまった。
四郷の背中から……腕が飛び出してきたのだ。
いや――よく見ると腕というより、俺の部屋にあったようなマニピュレーターに近い。だが、大きさやリーチはまるで段違いだ。
身を屈めた彼女の背から飛び出す、二本の青い機械の腕。それらはまるで弾丸のようにトラックへ伸び――通り過ぎてしまった。
「なっ!? おい、すり抜けちまったぞ!?」
てっきりあの巨大なマニピュレーターでトラックを受け止めるものだと思っていた俺は、この余りにも危なげな展開に狼狽せざるを得なかった。
……だが、所長さんの表情は変わらない。まるでこれが、予定調和であるかのように。
「し、四郷さんッ! 危なッ――!?」
そして、暴走トラック二台と四郷の距離が更に縮まり、ついに彼女がアリーナの中央――トラックにモロに挟まれる位置まで来たとき、マニピュレーターに変化が起きた。
救芽井が「危ない」と叫びかけた瞬間、トラックを通り過ぎていたマニピュレーターはいきなりUターンを始め、今度はトラックの背後に向かって襲い掛かった!
その圧倒的なスピードで空中を駆け抜ける鉄の腕は、トラックが四郷にたどり着くよりも遥かに早く、車体の背部をガッシリと掴んでしまう。
更に驚くべきなのは、そのパワーだろう。巨大マニピュレーターに掴まれた二台のトラックは、広いアリーナを一直線に走りつづけていたために相当な速度になっていたはず。
……にもかかわらず、あの機械の腕に後ろから引っ張られるだけで、みるみるスピードを落とされているのだ。
四郷に近づいていくにつれてそれはより顕著になり――ついには、四郷の身体を目前にして、完全に停止してしまった。
「ただ力任せに止めるだけなら簡単だけど、それじゃ運転手を殺しかねない。どうせ命を救うなら、全部救ってあげた方がオトクでしょ?」
「し、信じられない……! 四郷さんに、そんなことがっ……!」
高い速度に乗った大型トラックを、後ろから引っ張る力だけで止めてしまえるパワー。そして、それを可能にする弾丸並のスピード。
その二つを共有している怪物マニピュレーターを装備した、「新人類の身体」。恐らく機能はこれだけではないのだろうが……いずれにせよ、俺にとっては何もかもが圧倒的に感じられた。
「クク……いいぞ鮎子、その調子だ」
「末恐ろしいな。あれが、『新人類の身体』か……」
そして、瀧上さんと伊葉さんがこぼす言葉が、更に俺の胸中に眠る不安を刺激していく。
――あれが、四郷の力……。俺は、あの娘に勝たなくちゃならないってわけか……!
気がつけば、手すりを握る両手には更に力が入り、いつの間にか小刻みに震えるようになっていた。
……願わくば、この震えは「武者震い」であって
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