第85話 四本の腕を持つ少女
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て、辺りを見渡し始めた。俺と矢村もその声を聞いて辺りに視線を回すが、どこにもあの透き通るような水色のサイドテールは見えない。
「ホ、ホントや! 四郷のヤツ、どこ行ってもうたんや!?」
……確かにいつの間にか姿が見えなくなってるのには驚いたが、彼女が今どこにいるのか、次にどこに現れるかは――もう目星が付く。
「さぁ皆さん、ご覧ください! 我が四郷研究所の誇る、最新鋭義肢体『新人類の身体』のお出ましよッ!」
そして、所長さんは自分の妹を捜して視線を回している連中に向かって、派手なモーションで腕を振るい、アリーナの中央を指差した。
これまでのすまし顔からはなかなか想像のつかない、熱の込もった表情と声色に、四郷の所在を気にかけていた救芽井達もさすがに注目せざるを得ない。誰もが、広大に広がる白い大地に意識を奪われていた。
「ちょ、四郷所長! あなたの妹さんがいなくなってるっていうのに――」
「……いるさ。四郷なら、あそこに」
「――えっ?」
それでも、妹の不在でざわめき始めたこのタイミングで発表に掛かろうとする所長さんに、救芽井は食ってかかろうと彼女の方へ詰め寄っていく。
俺はそんな彼女を腕で制し、ここから見えるアリーナの最奥に存在する、一つの巨大なシャッター……すなわち、入口と思しき扉が開いていく様を指差した。
「え……うそ。あれ、四郷とちゃうん!?」
「とうとう、見せ付ける時が来たざますね……鮎子」
「そ、そんなっ――嘘でしょう!? 四郷さんがどうしてあそこにっ!?」
「むおぉおおぉ!? 鮎子くゥゥゥゥン!?」
そこから現れたのは――紛れも無く、四郷鮎子その人。
冷たい氷のような目つきでありながら、近付くだけで焼き尽くされてしまいそうな赤色を湛えた瞳。その苛烈さを癒すかのように流れる、艶やかな水色の長髪。機械のように無機質な雰囲気を裏付ける、無骨な丸渕眼鏡。
そして、その佇まいゆえに忘れかけてしまう、「年頃の少女」という彼女の在るべき姿をかろうじて思い起こさせる、一束に纏められた流水のサイドテール。
俺達の視線全てを一身に受けて、その一人の少女が地平線の如く広がるフィールドへ、自らのか細い足を踏み込ませた。
「四郷……!」
やがて広々としたアリーナの中心に向かい、悠然と歩いていく四郷。彼女のその姿に愕然となっていた、救芽井や矢村の前に当たる最前列から様子を見ていた俺は、思わず手すりを両手で握り締めていた。
……ともすれば、そのまま潰してしまえるんじゃないか、というくらいの力を込めて。
――彼女は、自分が機械の身体になったことについて、何も言わなかった。それは、本当に自分から望んだからなのか?
そして今の自分自身を、彼女は――望んでいるのだ
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