1. 特別な日
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この球磨に感謝するクマッ!!」
「感謝どころか湧き上がるのは憤怒と憎悪しかねーよッ!!」
そんな言い合いを繰り広げながら、二人は互いをもみくちゃにしつつ、笑顔で楽しそうに店内へと消えていく。
私は、そんな二人の楽しそうな声を聞きながら、看板をジッと見つめた。
――バーバーちょもらんま
……この名前は、みんなにとって、とても思い出深い。ある日、アキツグさんの後任として従軍床屋として鎮守府にやってきたハルは、床屋『バーバーちょもらんま』を開いて、私たちの髪を洗い、髪型を整え、そして共に楽しい毎日を過ごしてくれた。
「バーバーちょもらんま……」
もちろん、私にとっても、この名前は特別な意味を持つ。あの、過酷だったけど楽しかった日々……
『やせぇええええんっ!!』
『うるせー川内ッ!! 毎晩毎晩10時を過ぎたら俺の店にやってきやがって!!』
『ハル夜戦っ! 今晩こそ一緒に夜戦しよっ!!』
『誰がやるかこの妖怪夜戦女ッ!!』
そんなやりとりを飽きもせず、毎日毎日……夜になって、お店の窓を勢い良く開けたら、そこには必ずハルがいてくれて……口では『うるせー』って文句言うくせに、必ず窓の鍵は開いていて……ハルを夜戦に誘うたび、私はとても胸がポカポカして、暖かくて……
「ホント、びっくりだね……」
不意に北上に声をかけられ、ハッとした。私はいつの間にか、昔のことを思い出していたらしい。
「そだね。でもさ。球磨らしいよね」
「うん。でも戦々恐々だよ……私の店にもいつか余計な一言が加わりそう……」
「『ミア&リリー』だっけ」
「うん。『ミア&リリー“だクマ”』なんて店の名前、私はヤだなぁ……」
私の隣で、同じく私と一緒に看板を眺める北上が、そう言いながら苦笑いを浮かべる。そんなことはないだろうけれど、相手はあの球磨だけに、『絶対にない』とは言い切れないのが恐ろしい……。
とはいえ、きっと球磨は、ハル以外にはこういうことはやらない。球磨は、きっとハルに甘えてるんだと思う。好きな人には、甘えたくなるじゃん。楽しそうに笑ってる顔だけじゃなくて、困ってる顔とか怒ってる顔とか、そんな顔も見たくなるじゃん。
……だって、私は見たいから。
『ふたりともやめなよー』と言いながら北上は、相変わらずわーわーギャーギャーと騒がしい店内へと消えていった。その場に一人残された私は、再び看板を見つめ、そして、『バーバーちょもらんま鎮守府』と書かれた部分に触れた。
「……」
なんだか、言葉にしようのない気持ちが、私の胸に押し寄せる。思い出すのは、鎮守府にいた頃のハルの顔。彼が私に向ける顔は、みんなに向ける笑顔と同じ。彼にとって私は、隼鷹や北上、加古やビス子たちと変わらない。
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