第百三十七話 八条荘に帰ってその一
[8]前話 [2]次話
第百三十七話 八条荘に帰って
留美さんは八条荘に帰ってからだ、ふと門の方を振り返ってそのうえでこんなことを言った。
「誰もいないか」
「気配を感じましたか?」
「いや、そうではないが」
それでもとだ、留美さんは円香さんに話した。
「色々と話をしたな」
「妖怪のお話も」
「そうした話をするとだ」
どうしてもというのだ。
「どうしてもな」
「気になりますか」
「後ろにいるのではと思ったりしてな」
「そうしたお話をしてると寄るといいますしね」
「そうだな」
「それで、ですか」
「そんな気がする」
そうしたお話の後はというのだ。
「だから振り返ってみたが」
「何もいませんね」
「いないのも当然だ、観ようと思えばだ」
妖怪やそうした類はというのだ。
「いない」
「そうしたものですね」
「うむ、若しいてもだ」
僕達の後ろにだ。
「いる、観ようと思って振り返るとだ」
「身を隠す」
「そうだろう、そしていない」
「いないということになる」
「そうだろう、ではだ」
「帰られますか?」
「部屋にな」
見えない、この場合はいないということになる。それならというのだ。
「帰ろう」
「それでは」
円香さんも頷いてだ、そしてだった。
三人で八条荘に戻ってそうして僕も部屋に入ろうとした、けれどここで今度は円香さんがこんなことを言った。
「あの、いつも早百合さんが演奏されているピアノですが」
「あれだね」
ロビーのそのピアノを見てだ、僕は応えた。八条荘の中に入ると実際にそのピアノが目の前に出ていた。
「あのピアノだね」
「妖怪のお話ではないですが」
「どうしたのかな」
「あのピアノはかなりいいものと聞いていますが」
「そうらしいね」
ぼくもその話は聞いていて頷いた。
「何十年ものでね」
「何十年ですか」
「ピアノはもつけれどね」
早百合さん曰く手入れがよければ何百年とらしい。
「それだけは普通に」
「では」
「では?」
「魂もですね」
それもというのだ。
「宿りますね」
「ああ、付喪神だね」
「それにもなるかも知れないですね」
「そうだね」
僕もその可能性について否定しなかった。
「実際に」
「そうですね」
「うん、ただ確か百年位にならないと」
それ位の期間が経たないとだ。
「ならない様だね」
「付喪神には」
「そうみたいだよ」
「そうですか」
「うん、まあ何十年でもね」
僕は円香さんにお話してからこうも思った。
「付喪神になるかもね」
「その可能性もありますか」
「そうかもね」
「ではこのピアノも」
「まあ勝手に演奏をしたとかね」
そうした如何にもな話はだ。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ