第80話 俺を「つなぐ」、彼女の意味
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もう遅いから、一晩だけ泊めてあげる。明日になったら、久水家のバスで帰してもらいなさい」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
……だからといって、彼女に言われるがままでいるつもりはない。矢村も、俺にとっては「居てもらなくちゃいけない人」なんだから!
「なに? 一煉寺君」
「彼女は……帰さないでくれ。矢村は、その――お、俺の補佐なんだ! 着鎧甲冑の知識も俺より詳しいし、メンタルケアとか、そういう俺の精神衛生上、必要な人材なんだって!」
「ふぅん……じゃあ彼女は、あなたのメンタルヘルスのためにいる、ということ」
「そ、そうそう! それそれっ!」
所長さんは訝しむような表情で、必死にまくし立てる俺と、俯いたままの矢村を交互に見遣る。
俺はゴリ押しでも彼女に納得してもらうために、真っすぐに彼女の瞳を直視した。
……確かに、矢村は能力的には必要とされていないかも知れない。着鎧甲冑を使うわけでも、特別お金持ちというわけでもないし。
だけど――それでも、俺には彼女が必要なんだ。
こんな常識の枠をブチ破るような世界にいても、俺が自分を保っていられるのは……他でもない、矢村がずっと一緒に居てくれたからだ。
着鎧甲冑だの「新人類の身体」だのに関わることのない、「ただの女の子」である彼女が傍に居てくれたから、俺はどんなに遠い世界にいても、あの頃から離れていないんだと思える。
彼女の存在が、本来の俺をつなぎ止めてくれているんだ。
だから……ここに来て彼女だけ帰すなんて、絶対に嫌だ。そんなことになったら、それこそ俺は間違いなく、自分を見失ってしまうだろう。見知らぬ世界に、翻弄されるがまま。
そんなわがままで、見苦しい願望が伝わったのか――所長さんはため息をつくと、背を向けて研究所へ歩きはじめた。
恐る恐る顔を上げる矢村にそっと寄り添いながら、俺は彼女の反応を伺う。
「メンタルケア要員、矢村賀織――ね。ただの一般人だと思って人数にはカウントしてなかったけど……これは、再度人数確認が必要になるかしら」
その呟きが耳に入った瞬間、矢村は希望に満たされたようにパアッと顔を輝かせて、俺に目一杯抱き着いてきた。沈もうとしている太陽よりも、眩しく笑って。
「やったああぁあッ! 龍太、龍太、龍太ぁッ!」
「おう、よかったな、矢村! つ、つーかちょっとギブ……ぐ、ぐるじい……」
「龍太、ありがとう、ホント、ありがとうなっ! アタシのこと、必要やって言ってくれて、ホント、ホントッ……!」
……いや、これはもう抱擁じゃねぇ。ベアハッグだ。
矢村の情熱的過ぎる猛攻に、俺の呼吸器が悲鳴を上げはじめたところへ、今度は久水が騒ぎ出し、四郷が静止に入っていく。
「ワタクシの龍太様にベッタリと……よくもッ
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