巻ノ百十八 方広寺の裏その十三
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「大御所様ならばもう」
「お気付きだと」
「だからですか」
「そうです」
だからこそ、というのだ。
「お話されても。それに大御所様はこうしたことを誰にもお話されませぬ」
その者のことを気遣ってだ、そうした気遣いが出来る器の持ち主だからこそ天下人にもなれたのだ。
「ですから」
「そうですか、では」
「大御所様にはお話しておきます」
「片桐殿のお身体のことは」
「さすれば」
「はい、大坂のことは何とかします」
戦が起こらぬ様にするとだ、彼は二人に強く約束した。そのうえで話が終わると彼は丁度宴が終わった大蔵局と共に大坂に戻った、この時大蔵局は片桐に対して上機嫌でこんなことを言った。
「方広寺の件すぐに納得して頂き何よりでした」
「大御所様がですか」
「はい」
気品があるが満面の笑みでの返事だった。
「そしてそれからです」
「大御所様にですか」
「色々とよくしてもらいました」
それこそ贅を尽くした歓待を受けたというのだ。
「このこと何よりでした」
「他には」
「他にはとは」
「いえ」
片桐はここでわかった、大蔵局は家康に切支丹や国替えや茶々の江戸入りのことも話されていたが全て入っていないとだ。最初の方広寺のことが収まりそれで満足しているということがだ。
だからだ、それ以上は何も言わずだ。大蔵局に険しい顔になって述べた。
「では大坂に戻りますか」
「片桐殿、お顔が優れませぬが」
「そうでしょうか」
「本多上総殿、崇伝殿と何かとお話されましたが」
「そのことは無事に」
片桐は怪訝な顔になった大蔵局に答えた。
「終わりましたか」
「後はそれがしの働きだけです」
「方広寺のことは」
「それはもう無事に」
「お二方も納得されましたか」
「はい」
まさにというのだ。
「ご安心下さい」
「ならよし、では」
「はい、大坂にです」
「帰りましょう」
こう話してそしてだった、彼等は供の者達を連れて大坂に戻った。道中大蔵局は意気揚々だったが片桐は沈痛なままだった。そのあまりにも対照的な彼等が大坂に戻りことはまた動くのだった。
巻ノ百十八 完
2017・8・9
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