第75話 俺と彼女の、甘くも苦い夏の夜
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ような超美人に成長して現れたのは驚きだったが、中身が良くも悪くも相変わらずだったのには安心したし、彼女と一緒にいるという人生も、きっと明るかったはず。
――だが、それは俺が彼女に見合う男であればの話だ。俺はそんな大した男じゃないし、救芽井の婚約者という立場でもある。
そんな状態で、初恋相手だからといって安易に近寄っても、彼女を傷つけてしまうだけだ。
だから俺には……応えられない。もう、昔のようには、彼女の隣にいることは、出来ないんだ……!
「……俺は、俺は……!」
――だが、そう言い切るには勇気が足りなかった。ここまで真剣に想ってくれていた彼女を、バッサリと拒絶できるのか? 俺なんかに?
……そんな偉そうに彼女を振り回して、いいのか?
そう思うと、俺はどうしても言葉を続けることが出来なかった。なんとか口にしようとしても、恐怖に駆られて舌が回らなくなってしまうからだ。
彼女を際限なく傷つけてしまう、恐怖に。
「――わかりましたわ。これ以上、こんなことを聴いても、あなたを苦しめてしまうだけ……。それならば、ワタクシにも考えがありましてよ」
「か、考え?」
その時、久水は何を思ったのか、人差し指を俺の唇に当て、その先の言葉を制してしまった。彼女の気持ちに、俺は気づかないままだったが……どうやら、向こうからは何もかもお見通しらしい。
彼女はようやく俺の上から離れると、ベッドの奥にある枕の傍へ移動した。そして、自分が持っていたもう一つのそれを、密着させるようにして並べている。
……なんかもう、ここまで来たら予想がついてしまいそうで怖い……。今までなら、絶対に意味不明な行動にしか見えないはずなのに。
「あ、あのー、久水さん? 一応お尋ねさせていただきたいのですが、何をされていらっしゃるのでしょう?」
「あら、決まっているでしょう? 今夜一晩、ワタクシとピッタリ寄り添って、眠っていただくざます」
「な、な、なっ……!」
あ、あ、有り得ない! 普通なら絶対有り得ない! ロングヘアの巨乳美女と、あんな至近距離で引っ付いて添い寝なんて! つーか、そんなドギマギせざるを得ない状況で寝れるかァッ!
そんな俺を悶々とさせたまま、久水は密着しきった枕のうちの片方に頭を乗せて、俺を手招きする。
「……ワタクシに残せる、最後の思い出、ざます。来て、下さいまし……」
「さ、最後って……!」
「あなたは救芽井樋稟の婚約者。そしてワタクシは、救芽井エレクトロニクスのスポンサー。それ以上の関係になりえないとおっしゃるならば、せめて、今夜だけでも……」
「……ひ、久水……」
ややお馴染みの高慢さを取り戻しかけていた彼女の声も、次第に再び弱々しくなっていく。その懇願するような
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ