第75話 俺と彼女の、甘くも苦い夏の夜
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声を詰まらせてしまう。
救芽井は――確かに、女の子としてはお世辞抜きに魅力的だろう。優しく、正義感も強く、ひたむきな彼女に愛されれば、普通に人生バラ色だ。現に、世界中にファンがいるアイドル的存在でもあるくらいだし。
そんな彼女の婚約者となっている俺は、本当なら相当な幸せ者のはずなんだ。
けど……俺には、彼女を幸せにできる力なんて、ない。救芽井家のみんなは俺の背中を押すけれど、一般家庭の次男坊に過ぎない俺に、一体何がやれるっていうんだ?
俺にできるのは、せいぜい着鎧甲冑を使った「お手伝い」くらいだ。世界的大企業の救芽井エレクトロニクスに携わるには、余りにもお粗末過ぎる。
彼女が本気で俺を愛してくれるなら、それは喜ばしいことだと思うし、俺のためにいろいろと手を回してくれている救芽井家のみんなのためにも、気持ちには応えるべきなんだとは思う。
だけど、それだけで何もかも解決できるもんでもないはずだ。「技術の解放を望む者達」のような勢力がまた襲ってきた時、俺は今度もきちんと彼女を守れるだろうか?
……俺には、絶望的に力が足りないんだ。彼女を支えるには、力が。
それこそ、俺個人の努力でどうにかなるとは、到底思えないくらいに。
だから、俺は――
「――わからない。俺にもわからないんだ。彼女を、受け止めることができるかどうか。弱気なコトだとは思うけど……」
「それが、あなたの本心?」
「……うん。だけど、彼女の気持ちさえ本物なら、いつかはちゃんと向き合わなくちゃならないんだと思う。それくらいは、わかる」
こんな風に考えるようになっちまったのも、四郷の話が効いてるせいなのかな……。
今まで俺は、自分にどんなに「それっぽい」話が飛んで来ても、「まさかそんな」で片付けてきた。自分にそんな浮ついた話は有り得ない、そう確信していたから。
だけど、あんな話を真剣にされたら、考え出さずにはいられなくなってしまう。自分が気づいていないどこかで、俺はとんでもない思い違いをしているんじゃないか、と。
身の程知らずも甚だしい、とは思うよ。だけど、もし本当に。百歩譲ったとして。あの言葉の数々に偽りがなかったのだとしたら。
……俺は、どうするべきなんだろうか。
「そう……そうざますか。では、ワタクシは?」
「……なっ!?」
「ワタクシは――どうざます? まだ、愛してくれるざますか?」
そうして悩んでいるところへ、彼女はさらにとんでもない話題をブチ込んで来る。いくらなんでも直球過ぎるだろう!
久水は……どうなんだろうか。
確かに、彼女が初恋相手だというのは事実だ。ちょっと強引なくらいの気丈さに、楽しい思い出をくれたこと。
そして――俺を覚えてくれていたこと。
見違える
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