第75話 俺と彼女の、甘くも苦い夏の夜
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めたはずだったざます。いつまでも泣き虫なままだと、あなたを困らせる。だから、いつまでも強気で、強気で、強気で居続けるって、そう決めたはずでしたのにっ……!」
「ひ、久水。俺はそんなことで――」
「――あなたは! そんなワタクシの気持ちも知らないでっ! ワタクシの知らないところで勝手にかっこよくなって、勝手に強くなって、勝手に女の子に囲まれてて……! いっそのこと、ワタクシのことなんて忘れてしまえばよかったのにッ!」
文字通りの目と鼻の先で、久水はひたすら慟哭を重ねる。その叫びに込められていたのは、記憶だった。俺と離れている間、彼女の胸中に渦巻いていた、記憶……。
あの別れ際の涙。あれは、俺を拒絶したわけじゃなかったのか……。なら俺は、どんだけ酷い勘違いを……?
「……救芽井さんを見ていれば、嫌でもわかってしまうざます。彼女がどれだけ、あなたに救われ、ゆえにあなたを愛しているのか。あなたの力がなければ、あんなふうに笑顔を振り撒くことさえ出来なかったはずなのですから……」
とうとう泣きつかれたのか、最初のような勢いはなくしたらしい。彼女は俺の胸に顔を埋めて、小さな声でむせび泣くようになった。
まさか、ああやって救芽井が出ているテレビを見ていたのは、二年前に俺がしでかしたことの結果を確かめるため……?
「――堂々とあなたを愛し、あなたを求める資格を持つ彼女に、ワタクシは……嫉妬しましたわ。なぜ、どうして、あんなポッと出の女に、ワタクシが長年愛してきたあなたを、奪われなくてはならないの? どうして? どうしてッ!」
「ひ、久水……」
「……でも、親しげに話すあなたたちを見ていて、わかったざます。『ポッと出』なのは、いつしかワタクシの方になっていたと。ワタクシには、時間が足りなかった。あなたを得られるだけの、時間と、思い出が……」
俺の襟首をキュッと握りしめて、久水は甘えるような、悔やむような声でボソボソと呟いている。俺はせめてもの贖罪のつもりで、聞き逃さないようにしっかりと耳を傾けた。
――こんなにも久水は、ずっと俺のことを気にかけていたってのか……?
「お兄様が救芽井さん目当てに松霧町に行くと決めた時、ワタクシは感激しましたのよ? あなたに会える、そう願えたから……。――だけど、その願いが叶った時には、あなたは既にワタクシの愛が届かない場所まで行ってしまわれていた……」
「救芽井の婚約者……そうなってるからな」
「あなたは――どうなんですの?」
「えっ?」
「あなたは救芽井さんを、愛しているざますか? 両想い、なのざますか?」
久水の想い、その重さを前にして、どうするべきか迷走しかけていたところへ、彼女は俺の胸から顔を上げて、不意にそんなことを問い掛けてきた。
その質問に、俺は思わず
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