第75話 俺と彼女の、甘くも苦い夏の夜
[4/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
嫌いかなんて、どうせエスパーじゃないんだからわかりっこないんだし。
確かなのは……今、彼女が泣いてるってことだけ。
愛も恋も関係ない。女が泣いてるなら、男が助ける。
彼女を俺ごときが支えようとする理由なんて――それだけで結構だ。
「俺は……誰にも何も言わない。嫌なら何も言わなくていい。いくら泣いたって構わない。だから、その、頼むから安心してくれよ」
こんな時に上手いことが言えない自分のボキャブラリーのなさには、時折、心底腹が立つ。ぬぅ、現代国語の勉強くらいはちゃんとやっとくんだった……。
俺の下手くそな励ましを受けた久水は、背中に触れていた俺の手を払い、溢れる寸前まで涙を貯めた瞳で、俺を睨む。
――そして、次の瞬間。
「……どうして」
「え? お、おわっ!?」
「――どうして! どうして! どうして! どうして! どうしてぇっ!」
何が起きたのかを脳が分析するよりも早く、俺は久水に押し倒されていた。やはり今のは地雷だったのか……!?
彼女をフォローするはずが、かえって傷つけてしまったのかも知れない。その後悔の念が俺を飲み込もうと、波となって襲い掛かってきた。
だが――
「どうして今になって……今になって! ワタクシの前に現れるざますッ! 今になって、優しくするざますッ!」
「えっ……?」
――彼女の怒りのベクトルは、俺が予期していたものからは大きく外れていた。
「着鎧甲冑の理念を守るために戦って! 救芽井さんを手に入れて! 守るべき大切な人を見つけたはずなのに! 昔の存在に過ぎないワタクシのことなんて、とうに忘れ去るべきなのにっ! どうして! どうしてあなたは! ワタクシを覚えているざますかっ!? どうして、どうして、どうしてワタクシに! あの日の気持ち、思い出させるざますかっ!」
彼女の双丘は慟哭に比例して激しく揺れ、瞳からは決壊したダムのごとく溢れ出す雫が、俺の顔に降り注いでいた。
俺の上に馬乗りになった姿勢で、久水はひたすら泣き、罵倒し、叫ぶ。胸倉を掴む彼女の手が震えているのは多分――いや、間違いなく気のせいではない。
――四郷の話は、確実に現実味を帯びて来ている。なんでもない男を相手に、ここまで大粒の涙を見せられるほど、彼女は気弱ではないはず。
小さい頃、彼女は俺に会うまで独りだった。それでも、それらしいところなんて、これっぽっちも俺に見せていなかったんだ。そんな気丈な彼女が今、俺の眼前で大泣きしている。
……それくらい、今の俺はアテにされてしまっている、ということだ。何の取り柄もないはずの、この俺が。
「――あなたと離れることが決まって、あなたの前であんなに泣いた時……もうワタクシ、泣かないと決
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ