第75話 俺と彼女の、甘くも苦い夏の夜
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て来る音声から察して、テレビの光と見て間違いない。付けっぱなしで部屋を出たのか……?
「と、とにかく電気を……」
……なんにせよ、この薄気味悪い状況をなんとかしなくては。
俺は扉近くの壁をまさぐり、電気のスイッチらしき感触を指先で確かめる。
そして、そこにグッと力を入れた瞬間、この部屋全体は薄暗い不気味な空間から一転し、ゴージャスな寝室へと変貌を遂げた。
煌々と輝くシャンデリアを見上げ、ひとまずホッと胸を撫で下ろす。やっぱ暗いのはやだね、ホント。
――だが、そこから視線を落としてベッドの方へ向いた瞬間。
そんな悠長なコトを言ってる場合ではない、という事実を、俺は思い知らされてしまった。
ベッドの上で、枕を抱きしめながらテレビをぼうっと眺めている久水。
色っぽいバスローブ姿でありながら、目に涙を貯めて枕にしがみついているその姿は、さながら失恋直後の少女のようだった。いや、実際「少女」だろうけど。
……って、涙!?
どうしたってんだよアイツ!?
「お、おい久水! どうしたんだ!?」
「えっ……!?」
慌てて駆け込んだ俺の視界全域に、驚いたように顔を上げた彼女の姿が映り込む。
悩ましくもけしからん胸元がチラッと見え――違う! バスローブの裾から伺えるお御足が――そこも違うッ! 唯一、年相応な印象を受けるつぶらな瞳に貯まった、幾つもの雫――それだッ!
そう、それ。いつもの、あの傍若無人なくらいに気丈な久水梢様と同一人物であるとは信じられないほど、今の彼女は弱々しい姿をさらけ出していたのだ。一体、久水に何があったんだ!?
……つか、ノックして名前を呼んでドアを開けて電気まで付けたのに、今の今まで俺の存在に気づかなかったかのようなリアクションだったな。そんなにテレビに夢中になってたのか?
お嬢様を通り越して女王様な久水が泣いちゃってるくらいだし、相当泣けるメロドラマでもやってたのかな……ん?
『みんなの想いが命を救う! 救芽井エレクトロニクスっ!』
これは……救芽井エレクトロニクスのCM?
テレビに映っているのは、満面の笑みを湛えてガッツポーズを決める救芽井の姿。彼女の周りには、救芽井エレクトロニクスの社員らしき人々が大勢集まり、歓声を上げている。
そのCMが終わった後も、着鎧甲冑のプロモーション映像や、「救済の龍勇者」の発表会などが続々と流れていっている。
……しかし、単なる番組の途中にしては、やたら救芽井エレクトロニクスのターンが長いな……。もしかして、これってビデオ?
久水はしばらくぽけーっと俺の顔を眺めていたが、やがて我に返ったかのようにハッとすると、今度は顔を枕に埋めてしまった。その奥からは、僅かに啜り泣くような声
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