第72話 女湯強襲揚陸
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ひしめき合っているのだろう。そこに背を向けている以上、俺に後退の二文字はない。
ゆえに、前進あるのみッ!
「ごめんなさァァァァいィィィィッ!」
――要するに逃亡である。
いずれ、死刑を宣告されるのは目に見えてる。だから今は、精一杯もがきたい。一秒でも生きていたい。
覗きより遥かに大問題なアクシデントを起こしておきながら、面と向かって謝りもせずに逃げ出す。こんな後味の悪い話はない。
せめて、後で全員に自首することを人知れず誓い、俺は女湯から逃げおおせたのだった。
「龍太君、待ちなさいッ! ここまで来ておいて、一緒に入らないつもりなのッ!?」
「龍太ぁーっ! せっかくの営みやろぉーっ!」
「待つざます一煉寺ぃぃっ!」
……だが、彼女達は自首する暇すら与えないつもりの様子。豪華な脱衣所までたどり着いた俺の足を、救芽井・矢村・久水の三連星が捕まえてしまった。
そこでつんのめった俺は、倒れ伏すと同時にガツンと顔面を床に打ち付けてしまう。
――後ろは見ないぞ。見るのが怖いからな!
「さぁ、お風呂に戻るわよ龍太君。背中、流してあげるから」
「ムッ! せ、背中はアタシが流すんに来まっとるやろっ!」
「あなた達は足でも磨いてあげなさい。背中を流すのは、ワタクシの役目ざます!」
「ご、ごめんなさいィィィッ! もうしないから、ていうか出来るわけないから、お命だけはァァァァッ!」
俺の上に乗っかりながら、やけにニコニコと談笑してる三人がコワイ! なんだコレ、なんなんだよ!?
拷問を「可愛がる」って形容してるのと同じだろ今の会話! やめて! やっぱり死ぬのコワイ!
――そ、そうだ! 今まで事態を静観して、冷静な判断で茂さんをブッ飛ばしてた四郷様なら、この状況を覆してくださるかも知れない!
頼む四郷! 俺をさっきみたいに、男湯までホールインワンしてくれッ!
「……梢、がんばれー……」
――早々に切り捨てられたァァァァッ!
なんだよ「がんばれ」って! 久水に何を頑張れって言ってるんだあのロリは! 三角木馬か!? 鞭打ちか!?
「い、いやだ……いやだァァァァッ!」
そんな切実で悲痛な叫びも虚しいまま、俺は三人に両足から引きずられ、女湯へ連行されていく。あぁ、手を伸ばした先にあったはずの脱衣所が、湯気に消えていく……!
結局、死を改めて覚悟する暇すら与えられないまま、俺は湯煙という死の世界に幽閉されてしまうのだった。
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