第66話 叶わぬ恋は、真夏に溶けて
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――小学校三年の夏休み。
兄貴と一緒に、河川敷でキャッチボールに興じていた時のことだ。
「おーい龍太ぁ、行くぞー!」
「う、うんっ! ……あ、あれっ!?」
当時中学二年だった兄貴の投げるボールは、キャッチボールをする感覚でも野球部のピッチングに匹敵していた。当然、一般ピープル程度の身体能力すら持たない小三の俺に、そんなもん取れるはずがない。
しょっちゅうグローブを弾かれ、まるで昭和の特訓のような状態になっていたのだ。兄弟同士のキャッチボールで。
――今思えば、戦闘ロボットを素手で殴り壊せる兄貴とのキャッチボールなんて、自殺行為も甚だしい。我ながら、よく生きていたものだ。
「ふえぇ〜、またとれなかったよぉ……」
「仕方ないさ。練習したら、きっと出来るようになるよ」
だが、当時の俺は他所のキャッチボールというものを見たことがなかったので、それが「やむを得ない」ことなんだとはわからなかった。
ゆえに「キャッチボールとはこういうもの」、「俺はキャッチボールすらできない運動オンチ」という、間違いなのかそうでないのか、微妙な認識を植え付けられていたのだ。
……まぁ、そんなことはどうでもいい。このことから何か言うことがあるとするなら、それくらい当時の俺が「バカ」だったということくらいだ。
「うーん……ぼく、キャッチボールにむいてないのかなぁ」
「ま、向き不向きはあるよな。親父だって、道院長にもなって『固め技は得意じゃない』とかホザいてたし……」
「どーいんちょー? なにそれおいしいの?」
「あ、ああいやっ! お前が気にするようなことじゃないよっ!」
この時はまだ、親父や母さんと四人一緒に暮らしていた。なのに父親や兄のことをよく知っていなかった俺は、多分かなりの親不孝者なんだろう。
隣町に親父と兄貴の道院があったなら、両親がいる間に知る機会なんていくらでもあったはずだ。なのに、俺は何も知らなかった。
それは親父達が隠していたからなのか、俺が無関心なだけだったのか。今さらと言えば今さら過ぎるせいで、今となっては、それを聞く気にもなれない。
今になってその時を振り返れば、そんなことを考えさせられてしまう……という時期に、彼女は俺の前に現れた。
「あなた! わたくちのちもべになりなたい!」
飛んで行ったボールを拾おうと、茂みに入り込んだ瞬間。
そこで待ち構えていたかのように、小さな女の子が飛び出してきたのだ。いきなりのしもべ扱いと共に。
「わあ!」
驚いて尻餅をつく俺を見下ろし、この頃から茶色のロングヘアだった彼女――久水梢は、ドヤ顔でこちらに迫って来る。
「ふっふん、びっくりちた?」
「……びっくりした」
「――やったぁ! びっくり
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