第66話 叶わぬ恋は、真夏に溶けて
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て、返事を貰えるのかと思えば、酷く泣かせてしまった。何が原因かは今でもまるでわからないままだが、俺の何かに起因して起きたことだという点だけは、きっと紛れも無い事実なのだろう。
――そう。俺の初恋は、この時に散ったんだ。
ふと知り合った、破天荒で時々かわいい女の子。久水梢にフラれる、という形で。
……それからしばらくして、近所や友達の噂話に耳を傾けていくうちに、俺は彼女のことを少しずつ知っていった。
彼女ら久水家は、家族旅行の帰路につく途中、故障した車の修理のために松霧町に立ち寄っていたのだという。
そこでの修理が難航していた上、娘の「こずちゃん」が自然溢れる町並みを気に入っていたため、彼らはしばらくここに滞在していたのだ。
だが、資産家の娘、というのは友達作りが上手くはなかったらしい。
決して悪い子ではないはずなのだが、高慢ちきな性格が災いしてか、この町の子供達からはつまはじきにされていたのだとか。
いつもそのことでいじけては、河川敷の茂みに隠れていたのだそうだ。
そして……彼女の行動に付き合っていた同年代の子供は、どうやら俺だけだったらしい。
もしかしたら。もしかしたらだが、彼女がやたらと俺にこだわっていたのは、相手にしてくれる子供が俺しかいなかったから……なのかも知れない。
その俺とも別れ、彼女は自分の居場所へ帰って行った。結構なことじゃないか。
きっとそこなら、彼女を受け入れる世界があったはず。たまたま、ここの在り方に合わなかった、ってだけのことだろう。
……そう。だから俺はもう、「用済み」なんだ。
彼女に付き合い、一緒に遊ぶ相手になってやった。俺が望めたのは、最初からそれだけだったんだ。
いつまでも一緒にいたい、だなんて、身の程知らずも甚だしい。
最初から叶わない恋だったんだと思い知らされた俺は、その頃からますます女子との関わりを避けるようになっていた。
自信をなくしたから、というのが一番率直な動機だろう。
俺なんかが恋なんて、出来るわけがなかったんだ。何を勘違いしていたんだ。……そんな風に、いつも俺は自分をケナして、自重していた。
……多分、矢村や救芽井に会うことがなければ、俺は女の子とほとんど口を利かないまま、大人になっていたのかも知れない。
そんな灰色の人生から、もしかしたら脱出しつつあるのかも……なんて思い始めていた矢先に、まさか俺にとっての「失恋の象徴」がご降臨なさるとはな。
――今の彼女と、どう向き合うか。俺があの日の失恋を乗り越えられるとするなら、そのチャンスは今しかない。
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