第66話 叶わぬ恋は、真夏に溶けて
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く出発してホテルに行かねばならん。梢、早くさよならしなさい」
諭すような口調で、男性は久水を説得しようとする。そのやり取りで、俺は子供心に「別れの時」が近いことを覚らされようとしていた。
彼女がいなくなる。そう考えた途端、頭の中からサーッと体温が抜けていくような感覚に見舞われた。
恐らく、「頭の中が真っ白」になるという現象だろう。
「いなくなるの?」
「うん……わたくち、かえらなきゃいけないから」
「そんなぁ……」
瞬く間に目元に涙を浮かべた俺は、現実を突き付けられたショックから、彼女から目を逸らすように俯いてしまった。
個人的には、引き留めたかったはずだ。彼女の後ろで苦笑いしている両親が見えなければ。
ここでわがままを言っても、彼女達に迷惑が掛かる。何となくそう感じていた俺は、「本音を押し殺すこと」を学ばざるを得なかった。
――やだよ、いっしょにいたいよ! ぼく、こずちゃんが大好きなのにっ!
……そんな想いを、声を大にして言えたなら。今よりは、歯痒い思いはしなくて済んだのかもな。
どうやら俺は、ガキの癖して利口過ぎたらしい。言えたかも知れない「わがまま」を言わなかったがために、彼女を引き留めようとすらしなかった。
「……ねぇ、こずちゃん。あ、じゃなかった、『こずえさま』」
「さいごくらい、こずちゃんでもいいよ」
「そ、そっか、えへへ」
せめてわがままを言わない代わりに、何か気の利いたことを言ってやろうと考えた俺は、彼女が望んでいたはずの「こずえさま」呼びを実行してやった。……が、それは敢え無く空振りに終わる。
「こずちゃん、ぼく、やっぱりこずちゃんがすきだな。こずちゃんは、ぼくのことすき? きらい?」
「えっ! えーっと、えぇーっと、す、す、す……!」
別れ際に、気持ちを確認しておきたかったのだろう。俺は向こうの両親が見ている前だというのに、なりふり構わず告白を敢行していた。
もし好きになってもらうことが出来れば、いつかまた会える。そんな根拠のない夢を、胸中に詰め込んでいたからだ。
向こうは顔を真っ赤にして、なんとか返事をしようと必死になっていた。「す」という最初の言葉から予想される展開に、俺は期待を溢れさせていたのだが――
「……ふ、え、えぇえぇえええぇんっ!」
――答えを聞く前に、彼女は大声で泣き出してしまった。
何が起きたのかわからず、今度こそ完全に「頭の中が真っ白」になってしまう。彼女の両親はあわてふためきながら俺に一礼すると、使用人らしき男性にさっさと車のエンジンをかけさせ、ガソスタから走り去ってしまった。
……俺は、その後ろ姿を見送ることもせず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかったのだ。
告白をし
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