第64話 出発前からストレスマッハ
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トの中心に、黒塗りの長い四輪車が待ち受けている。
「こちらになります!」
「荷物をお預かりします!」
相変わらずたじろぐ暇もなく、従業員達がササッと俺達の荷物を掻っ攫ってしまう。数秒後には、三人分の荷物がリムジンのトランクに詰め込まれていた。
その作業の流れを、まるで当然のことのように眺めている救芽井。お前、マジでこの二年間でなにがあった……。それともコレが素なのか?
「それでは皆様、こちらの御席になります」
グラサンのオッサンが運転席につくと、他の従業員さんがドアを開けてくれる。運転席と助手席の、すぐ後ろの列の席だな。
「あ、ど、どーも……」
イマイチこのノリについていけず、俺はたどたどしい動きでリムジンの中に乗り込んだ。
座席に敷かれた綺麗なマットが、腰を乗せた途端にふわりと揺れ、ゆったりとした乗り心地を感じさせられる。
「おおっ!」
リムジンなんて初めて乗るから、この快適さが高級車ゆえなのか救芽井家用ゆえなのかはわからない。ただ、かつてないほどのリッチな世界に、直で触れていることだけは確かだった。
「す、すごいなぁ龍太!」
反対側から乗り込んでいた矢村も、同様の気持ちらしい。普段以上に子供っぽくはしゃぐその姿に、いつもなら意識しないような愛らしさを思い知らされてしまう。
「あ、あぁ、そうだな……」
「ちょっと龍太君! なぁにテレテレしてるのよっ! 早くシートベルト締めなさいっ!」
そんな俺の何がそんなに気に入らないのか、助手席に座っていた救芽井がジト目で叱り付けて来る。うひ、こえーこえー。
「ふっふーん。どや? これがキャリアの差ってもんなんやで?」
「キャ、キャリアなんて過去の産物に過ぎないわ! 大切なのは、これからの思い出――」
そこで、何かを思い出したかのように、二人の表情が急激に凍り付いた。
掘り返してはならない。思い出してはならない。そんな忌むべき記憶を、ふと蘇らせてしまったかのように。
「……そうやなぁ。キャリアなんてモンにこだわったらいけんよなぁ……!」
「そうそう……。未来を見据えることこそ、何より大事なことなのよ……!」
すると何が起きたのか、あれだけ対立していた二人が、急に意見を合わせはじめた。その眼に、どす黒い炎を宿して。
「お、おい? どうした二人とも――」
「久水……!」
「梢ぇえぇ……!」
「ひぃぃい!?」
一体どうしたのかと俺が訪ねるより先に、二人は窓から裏山の方角を般若のような形相で睨みつけた。今にも五寸釘を打ち出しそうだ……。
そんな彼女達にビビる俺を尻目に、救芽井と矢村は、口々に久水へ恨み節を吐きつづけていた。その殺意の波動張りのオーラに震えるオッサン
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