第64話 出発前からストレスマッハ
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その僅かな反応から、矢村が訝しむような視線を彼女に向ける。それに対し、救芽井は矢村から隠すかのようにバッグを抱きしめ、必死に反論していた。
その頬が羞恥の色に染まっているのは明白であり、矢村の言うことが「当たり」である可能性を伺わせている。……なんだってんだ? 「お気に入りの枕じゃなきゃ眠れない」とか言い出す気じゃないだろうな。
「あーもう、何持っていこうが本人の勝手だろうが。その辺にしとけって」
これ以上無駄に喧嘩しても、疲れるだけだ。俺は中立的(?)な立場を取り、なんとか仲裁を――
「むぅ……何を持っていくんが知らんけど! それで龍太に、エ、エッチなこととかしたりししよったら許さんけんな!」
「は、はぁっ!? そそ、そんなハレンチな物なんて持ってるわけないじゃないっ! 酷い言い掛かりよっ!」
――いや、俺の制止など、どこ吹く風、である。つか、お前ら一体、何を想像して喧嘩してるんだ?
……結局、二人の口論はそのまま止まることなくエスカレートしていき、いつしか「どちらの方が俺のことをより理解してるのか」という話題に逸れていた。
「知っとる? 龍太はあんたと離れとる間に、背が十四センチも伸びたんや! あんたが思っとるより、ずうっと大人になっとんやで!」
「なによ、それくらい見ればわかるわよ! ……氏名、一煉寺龍太。生年月日、二〇十二年五月二十日。血液型はA型。家族構成は両親と兄一人の四人家族。身長百七十三センチ、体重六十八キロ。好物はフライドポテトとチキンナゲット。嫌いな物は英語と数学。……どう? 調べればもっと出てくるわよ!」
「――お前ら何の話してんだよッ!?」
オッサンの案内により、エレベータで下に降りる最中でも、その論争はこうして熾烈を極めていた。
仲裁を諦め、放っておこうとも一時は考えたものの、野放しにしていたら俺のプライバシーが破滅を迎えそうになるので、迅速に止めることにしたのだ。
――つーか救芽井ィッ! お前それどっから調べて来たァ! ソースはどこなんだァッ!
……そんな俺の胸中は、顔にまざまざと表出していたらしく、救芽井は俺の表情を見て、悪戯っぽく笑って見せた。
「婚約者のことは何でも知ってなきゃ、ねっ?」
「……頼むから、そういうことは俺に直接聞いてくれ」
恐ろしい外見のオッサンに囲まれたり、プライバシーを暴かれたり……。救芽井が絡むと、俺の平穏(?)なる日常がバイオレンスアドベンチャーと化すんだよなぁ……。
――ま、こういう経験も案外アリだったりするのかも知れないし、ここは前向きに行った方がいいのかもな。
と、いう具合に俺が気を持ち直した頃、俺達三人はマンションを出て、ようやく駐車場に到着していた。広々とした黒いアスファル
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