第63話 朝っぱらから肝試し
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十メートルほど先にあるエレベータへの道を作るように、彼らはピシッと並んで二本の行列を作ってしまった。しかも、いつの間にか後ろに来ていた従業員達に、リュックとキャリーバッグを掠め取られてしまう。
……いやあの、別に案内してもらわなくてもエレベータなら肉眼で見えるし。荷物持てとか言った覚えないし……。
だが、そんなことを今さら言い出せる空気でもない。俺も矢村も荷物を取り上げられてしまった身だが、到底何かを言えるような状況じゃなくなっているために、黙りこくっている。
「では、樋稟お嬢様のお部屋までご案内します」
「あ、あはは……どーも……」
もはや、お礼を言うことぐらいしか出来そうにない。逆らったら殺されそうだし。
……たくもー、使用人と暮らすんだったら、普通はメイド呼ぶだろ常識的に考えて!
何が悲しくて、朝っぱらからオッサンに囲まれた謎のハーレム地獄に叩きこまれなきゃならんのだ!
「みんなすごい体しとるなぁ……。アタシん家の弟子より凄い奴もおるで!」
「頼むから、今だけはそんな話しないで……」
矢村ん家では大工に囲まれ、救芽井ん家では従業員に囲まれ。これで久水ん家までオッサンで溢れかえってたりしたら、発狂する自信があるぞ。俺は。
そうして見るからに世の中に絶望したかのようなオーラを噴出しつつ、俺達はグラサンのオッサンに導かれ、エレベータに乗り込んだ。
小綺麗な割に狭いその箱庭には、荷物を持った二人を加えて、計五人が納まっている。
……まるで、ギャングのアジトにでも連行されてるみたいだな。普通のマンションにいるはずなのに。
そして待つこと十数秒。
ようやく最上階にたどり着いたかと思えば、グラサンのオッサンがエレベータの外までズイッと進み出て、こちらに一礼してくる。
「お待たせいたしました。樋稟お嬢様のお部屋は、こちらになります」
もはや見慣れてしまいそうなほどに、整い尽くされた動きを見せ付けられ、俺も矢村も無言で頬を引き攣らせるしかなかった。
――そのあと、ようやく救芽井の個室に案内されることに。
彼に案内された、その救芽井の部屋というのは、最上階の中央辺りの号室だった。なんでも、左右両方からの外敵から彼女を守るためらしい。
……そもそもこの町にどういう外敵がいるんだよ。
そんな俺の心のツッコミが空を切ると同時に、オッサンは玄関を解錠してドアを開けてしまう。使用人に合い鍵持たせてんのか……。
「この部屋っすか?」
「ええ。私達はここで待機しておりますので、樋稟お嬢様にご挨拶していただくようお願いします」
どうやら、俺達の荷物は預けたままになるらしい。まぁ救芽井の部下なんだから任せても大丈夫だろうし、俺達はさっさとご本人に会わない
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