第62話 矢村さん家にお邪魔します【挿絵あり】
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ままの美点を口にする。
すると、俯いていた矢村は急に顔を上げ、パアッと明るい表情に早変わりしてしまう。何と言うわかりやすさ……。
「に、似合っとる、似合っとるんかぁ〜……えへへ……って、あれ? お父ちゃん?」
ここぞとばかりにテレテレしている彼女だったが、俺の傍で震えている武章さんを見た途端、顔色が変わった。
「か、賀織! いやあの、お父ちゃんはな、例のこの男がお前に相応しいかどうかを見極め――」
「なんでお父ちゃんがここにおるん!? りゅ、龍太に……龍太になにしたんっ!?」
なるべく穏便に済まそうとしてる武章さん。そんな彼の態度を見てあらかたの事情を察したのか、矢村は血相を変えて父親につかみ掛かる。
「な、なぁ矢村。俺は別に大したことないから、準備できてるなら早く行こうぜ? だいぶ時間食っちまってるみたいだし」
俺は締まっていた首の辺りをさすりながら、とにかくこの場を脱することを提案した。このままほったらかすと、ロクなことにならない予感しかしないからだ。
だが、当の矢村は全く耳を貸す気配がなく、締め上げられて皺くちゃになった俺のTシャツを見た瞬間、顔面蒼白になってしまった。
「そ、そんな……! ――お父ちゃん、なんでや! なんでこんな酷いことしたんやっ!」
「す、すまん賀織! だ、だがこれもお前のためで――」
「バカ、バカバカバカァ! お父ちゃんのバカァッ!」
まるで夫を殺された妻のように泣きわめく矢村。いや、別に俺、怪我すらしてないはずなんですけど……。
「賀織。龍太君、別に怒っとらんみたいやし、ちゃんと謝って許してもらい。ここはアタシがなんとかしちゃるけん、早うお行きや」
勝手に荒ぶってる矢村に、俺も武章さんも困り果てていたその時、お母さんが助け船を出してくれた。
暖かい微笑みを向けられた矢村は、気まずそうに武章さんから手を離すと、俺の方に不安げな視線を向ける。
「りゅ、龍太……その、お父ちゃんのこと、ホントにごめん……ごめんなさい」
「いいっていいって。付き合い長いんだし、そりゃこういうことも一度や二度はあるさ。俺も、なんとか仲良くなれるように足掻いてみるから、お前ももう泣くんじゃないぞ」
――正直言うと、仲良くなれる自信はあんまりないんだけどね。第一印象が恐すぎるから……。
ただ、それでもこれくらいのことは言ってやらなきゃ、不安にさせちまうだろうし。デリカシーのなさに定評がある俺でも、それくらいのことはわかるよ。
「龍太……」
そんな俺の気遣いが、まぁほんのちょっとは嬉しかったのかな。矢村は感極まったような表情で、上目遣いで俺を見詰める。
そして――何を血迷ったのか、キャリーバッグを捨てて俺の胸に飛び込んできた!?
「
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ