第62話 矢村さん家にお邪魔します【挿絵あり】
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っさと話を進めてしまおうと、矢村のお母さんらしきこのおばちゃんに、例の件を持ち出した。彼女はおおよその事情は聞き及んでいたらしく、足早に家の中へと引き返して行った。
「ちょっと賀織ィー! もう龍太君、下まで来とるけん、早う降りて来ぃやー!」
「えぇ!? もう来とん!? どないしよ、何着て行ったらええんやろ、えぇとえぇと……!」
「なにモタモタしとん! 彼氏待たせたらあかんやろ! あーもぉなんでもええけん、早う行きやって!」
「か、彼氏って! まだそんなんやないのにっ! あ、ちょ、お母ちゃん待ってやぁぁぁ!」
なにを話してるのかは知らないが、とにかく、やたらあわてふためいてるってことだけはよくわかった。確かに武章さん達に絡まれたせいで結構タイムロスしてるし、急いでくれると俺としてもありがたい。
そんな、我ながらせっかちなことを思いはじめた時。ようやく玄関から矢村が飛び出して来た。そして……思わず、目を見張る。
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旅行に使うような黒塗りのキャリーバッグを引き、オレンジ色のフリル付きワンピースを着こなすその姿は……なんというか、従来の矢村自身にケンカ売ってるような格好だ。つばの広い麦わら帽子を被っている所が、男勝りな元気っ子だった頃の「名残」のように感じられてしまうくらいに。
「あ、あぅ……」
「うん、よう似合っとる! これなら行けるで賀織っ!」
恥ずかしそうに俯く矢村の背を、お母さんは豪快にバシバシと叩いている。聞いてるだけで背中が痛くなるような音なのに、恥じらいながらびくともしない矢村って一体……。
「えっと、その……お、おはよう、龍太」
「お? おぉ、おはよう」
はにかみながら挨拶してくる矢村。その普段とは全く違う印象に、俺としては戸惑いが隠せない。なんともマヌケな声で返事をしてしまったではないか。
「な、なぁ。似合っとる……? コレ」
「まぁ似合ってるには似合ってるが……。山に行くんだし、もうちょい動きやすい服装でもよかったんじゃない?」
矢村のことだから、きっとジャージみたいな運動向けの服で来るだろうと思ってただけに、ワンピースは意外だった。
「で、でも龍太、こういうのが好きなんやないん? ほら、あの四郷って子も着とったんやろ?」
「別にアイツが着てたからって、お前も同じのを着なくちゃいけないことにはならんだろ……」
俺は割と真っ当なことを言ったつもりだったんだが、向こうは何がショックだったのか、酷くしょんぼりした顔になってしまった。その隣で、お母さんはどうしたものかと頭を悩ませている。
「ま、似合ってるからいいんだけどさ」
――状況がよく見えないが、なんかフォローした方がよさ気な空気を感じたので、俺は思った
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