第60話 必要悪 〜アステマ〜
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聴覚を支配しようとしていたから。
もし電車の方を見ていたら、きっと俺も恐怖で脚が止まっていただろう。そして、二人ともミンチだった。
自分の鼓動が、バクンバクンと大きく聞こえて来る。それを身体全体で感じることで、「生きている事実」を実感しているような気分になった。
「ぶっ……ふぅ〜……!」
俺は電車が轟音と共に過ぎ去ったのを見届けた後、それまでずっと止めていた息を、思い切り吐き出した。そして、文字通り胸を撫で下ろす。
それと同時に、今までの無理が振り返したのもあってか、酷く息が上がってしまった。三十キロ走の後にこの命懸け重労働は、さすがに堪えたらしい。
「ハァ、ハァ、ハァッ……! あ、あのっ、大丈夫、っすか……?」
俺は両脚を引きずりながら、這うようにしておばちゃんに近づく。俺の背中から離れていたおばちゃんは、緊張から解放された反動ゆえか、やや放心状態のようだった。
『――アドレナリンの分泌量が、通常値に戻って来てる。生体反応も健在よ! やったわ龍太君っ!』
『やったあーっ! 龍太、すごいやん、龍太ぁっ!』
……いろいろギリギリだったが、なんとかミッションは成功らしい。通信機越しに、救芽井と矢村の歓声が聞こえて来る。
――やれやれ、もうこんなコンディションで仕事したくねぇなぁ……。
「……はっ! あ、ど、どーも、ありがとうございますっ! おかげさまで助かりました!」
すると、ようやく正気を取り戻したのか、おばちゃんは深々と何度も俺に頭を下げてきた。……悪くないな、こういうの。
「いいですって、このくらい。それより、どうしてあんなところに? 踏切に閉じ込められてたみたいですけど……」
「そ、そうなんです! なんかいきなり白装束の変な人に絡まれて、ここまで投げ飛ばされたんです〜!」
俺の両肩をガシッと掴んで思い切り揺さぶりながら、おばちゃんはヒステリックに妙なことを口走る。
……白装束の変な人?
「僕のことだね」
――ふと、後ろから聞き慣れない声が、背中に突き刺さってきた。背筋に伝わるゾクリとした感覚が、俺の第六感を刺激する。
「ひ、ひえぇえぇーっ!?」
俺の後ろに立っている人物(?)の姿を俺越しに見たおばちゃん。彼女は、まるで連続殺人犯にでも出くわしたかのような悲鳴を上げて、スタコラと逃げ出してしまった。
「……誰だ!?」
俺は敢えておばちゃんには目もくれず、後ろを振り返りながら身構える。俺のお得意、カウンター重視の護身術「少林寺拳法」の構えだ。
「そんなに身構えることはない。少なくとも、僕は敵じゃない」
「あんたは……!?」
――おばちゃんが話していた通り、確かに「変な人」だ。
機動隊が着ているような出
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