第七章 C.D.の計略
鏡面の自分
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高円寺健人
清明院大学香取研究室に所属する科学者だ。
彼の研究テーマは「生命」というものを、一つのエネルギーとして運用可能にすること。
だがそんな研究に資金を出し続けるほど、大学も金があるわけではない。
現在の世界はともかくとして、以前の世界ではそのような研究テーマはただの「おとぎ話」としか認識されなかった。
事実、研究室の責任者香取教授も、そして高円寺自身を含めた数人の研究員も、この研究にあきらめがつき始めていた。
あの時、あれに巻き込まれる、までは。
数年前
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あの時、高円寺健人は大学本館と研究棟とを何往復もしていた。
もうやめるか、という雰囲気の中、緩慢と進めていた研究室内の整理。
だがいくら緩慢につづけようとも、こちらの部屋に持ち込んだ資料の数は膨大だ。いずれ大きな塊が出てくる。
その日、高円寺はその塊を運んで研究棟と大学本館資料庫を往復していたのである。
「重・・・・」
ずり落ちそうになる紙の資料を、腰を揺すって抱えなおす。
腕が痺れてきたが、これで最後かと思うとまあいいか、とも思える。
そうして往復していく度に通過する、江島研究室の中をまた覗き込んだ。
とはいっても、近づいてみているわけではなく、横断する廊下の奥にある部屋のドア窓から中をチラ見するくらいだが。
なかで何の研究をしているのかはわからない。
あそこの研究は教授ではなく神崎という研究員が主導になって動いているらしいが、それ以上のことはうわさでも聞かない。
ただ、覗き込んだ時に壁一面に張られた大鏡だけは奇妙だと思った。
まさか鏡の中の世界とか?
そんな考えが脳裏に浮かび、鼻で笑って首を振る。
自分もあんな研究をしているから、そんなことが浮かんでしまう。
そんなものはない。あれはただの光の反射。
鏡の中の世界などある筈がない。メルヘンやファンタジーじゃないんだから。
だが、それは今となっては否定できる。
鏡の世界は、あったのだ。
最後の資料を運び終え、研究室に還って帰り支度をしようと歩いていたとき。
あの研究室の前を通った瞬間、彼の考えは変わった。
ちょっとした好奇心だった。
どんな研究をしているのかと。
さっきまでは荷物が重かったけど、今なら自然と脚が好奇心に従った。
ドア窓から向こうを覗こうと、扉に手を当てた、瞬間に
「うわっ!?」
その窓から、激しい光が飛び込んできた。
まるで何かのエネルギーでもあるかのようにその
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