第57話 決闘禁止の法律が逃げた【挿絵あり】
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俺はちょっと荒っぽく、わしわしと矢村の頭を撫でてやった。功績を褒められて嬉しかったらしく、彼女は「えへへー」と満面の笑みで俺を見上げている。
しかし、久水の兄貴だっていう茂さん、十九歳で資産家の当主やってんのか……? 俺と二つしか違わないってのに、たいしたもんだ。
「私も珍しく矢村さんとは同意見ね! 龍太君の強さを見たら、きっとあなたも久水茂さんも腰を抜かすわ!」
何が気に障ってるのか、救芽井はやたらと声を荒げて久水に抗議している。いや……なんか二人とも、俺のこと持ち上げ過ぎじゃない?
だいたい、決闘の類は日本の法律で禁止されてるんじゃないのかよ? 金持ちの世界は、法の正義さえ捩曲げてしまうというのか!
……いや、それよりも。
着鎧甲冑は、こんないさかいのためにあるようなものじゃないはずだ。人を助けて、命を繋いでいくために造られたものじゃないのか?
俺は――やりたくないな、出来ることなら。
「いい度胸ざます! 一週間後が楽しみざますね! 鮎子、今日はこの辺でおいとましましょうか」
そんな俺の胸中をよそに、久水は四郷を連れて部室を出ようとしていた。意気揚々とこの場を去ろうとする、彼女の後ろを歩いていた四郷は、一瞬俺の方を見ると、サッと久水に続いて部屋を立ち去ってしまった。
俺の顔、なんか付いてるのか……?
「ふー……やれやれ、とんでもないことになっちまったなぁ」
彼女達が帰っていったのを確認して、ようやく俺は着鎧を解除した。このクソ暑い炎天下で長時間の着鎧とか、マジで死ねる……。
俺は胸元の服をパタパタと揺らして涼みながら、やっとこ椅子に腰掛けた。
「龍太君以外の男の人と結婚だなんて、考えられないわ! 後から図々しく出てきたって、あんな人のお嫁さんになんてなってあげないんだから!」
「よっぽどお前の好みに合わなかったんだな、その茂って人」
「当たり前よっ! だから龍太君、絶対に負けないでね! 今から特訓しましょう!」
「龍太のことバカにするなんて許せんけんなっ! アタシも賛成や! 鼻あかしたれっ!」
「なんでお前らだけそんなにやる気満々なんだよ……」
昨日までは、一応は平凡な夏休みだったはず。……はずなのに、いつしか俺は救芽井を賭けて、会ったこともない人との決闘に臨むハメになっていた。
こんな着鎧甲冑のコンセプトをガン無視するような決闘、どうあってもお断りする展開になるって思ってたんだけどなぁ……。着鎧甲冑の観念に背くくらいなら、俺なんかポイ捨てしちまった方がマシだったろうに。
救芽井も矢村も、俺なんぞの何が良くてこんな事態を築き上げてるんだかな……。
俺は夏の陽射しを窓から見上げ、これから起こるであろう一悶着にため息をつく。
「それに、まさか
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