第52話 校長という名の壁
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の衝撃の余波は本棚にまで及び、一冊の本がポロリと落っこちてしまう。
「あ、なんか落ちたで」
「俺が拾うよ。……ったく、救芽井のヤツなに考えてんだか……」
「残念な美少女」を地で行く彼女にぶーたれながら、俺はカーペットの上に落下していた、古びた本を拾う。
見たところ、少し昔の卒業文集らしい。表紙に書かれた年号を見るに、十年近く前のものみたいだ。
校長室に入る機会なんてそうそうないし……せっかくなんで、ちょっとだけ読んでみようかな。
「山田花子、田中太郎……恐ろしくポピュラーな名前ばっかりだな。昔の卒業生」
「え、昔の卒業文集? アタシも見せてや」
つま先立ちの姿勢で、なんとか中身を覗こうと頑張っている矢村。見せてあげないと俺が意地悪してるみたいだから、ちょっと本の位置を下げてやった。
彼女はそれが妙に嬉しかったらしく、「ありがとぉっ」と愛らしく笑いながら本を覗き込む。
「ここの四郷鮎美って人、めっちゃ字が綺麗やね。『将来は凱樹君のお嫁さんになりたいです』……って、きゃはー! なんなんコレ、めっちゃ惚気とるやんっ!」
卒業後の夢を書く欄を見た矢村が、頬を赤らめてテンションを上げる。女の子って、やっぱこういう話題が大好きだったりすんのかな? 恋バナとかするくらいだし。
そんなことを考えながら、俺は過去の卒業生達が語る夢の数々を目で追っていく。ここで夢を綴っていた人達は、今はどうしてるのかな……ん?
「『どこの国の、どんな人でも助けられるような、誰よりも強くてかっこいいヒーローになりたい』……瀧上凱樹、か。もしかしてさっきの『凱樹君』って、この人じゃないか?」
「ホントや! なんやなんや、瀧上って人と四郷って人、付き合っとったんかな?」
「だろうな。……にしても卒業文集にこんなこと書くなんて、どんだけバカップルなんだ……」
当時の顔写真まではなかったが、二人がどんな人だったか気になってしまう文集だなコレは。
「アタシも……龍太のこと、文集に書いちゃろーかなぁ……?」
「勘弁してください。割とマジで!」
……しかし、「ヒーローになりたい」、か。
高三のくせして、随分と子供染みた夢をお持ちだったようだが――目指してなれるモンなのかねぇ、それは。
ふと、自分の過去を思い返してみる。中三の冬、あの時の俺は……違うよな。
昔も今も、俺は「ヒーロー」なんてご大層なものじゃなかった。よくよく考えてみれば、凄いのは着鎧甲冑や救芽井の尽力であって、俺じゃないんだから。
「き……君っ! 早くそれを戻したまえっ!」
――「ヒーロー」について、しばらく思案に暮れていた俺を現実に引き戻したのは、校長先生の叫び声だっ
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