第50話 「正義の味方」の軌跡
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女は泣き叫ぶことしかできずにいた。
だが、少年は彼女の想いに気づくことなく、「正義」のために恐るべき提案をした。
更なる「巨悪」を倒すため、自分と同じ力で、共闘する相棒を欲したのだ。
しかも彼が指名したのは、少女にとっての唯一の肉親だった、彼女の妹。
幼さゆえ、何も知らずに少年をヒーローだと信じ込んでいた妹は、姉の気持ちに気づかないまま、彼の誘いに乗ってしまった。
もはや狂気の域に達していた、少年の「ヒーロー」への熱意は、恋人を恐怖により従わせる強制力と化していたのだ。
そして彼に逆らうことができないまま、少女は最愛の妹に、恐るべき力を授けてしまう。
その結果、何も恐れるものがなくなった少年は、恋人の妹を引き連れ、「粛正」を行ってしまった。
彼が標的としていた軍人のみならず、罪なき人々までが、ヒーローだったはずの少年に焼き払われる姿。
その光景を目の当たりにし、自分もそれと同じ存在だという現実を突き付けられた妹は――心を壊し、生きた人形となった。
天真爛漫だった妹の変わり果てた姿に、ますます苦しめられる少女。そんな姉妹をよそに、少年は自らの正義を為せる力に酔いしれていた。
――だが、その時は長くは続かなかった。
彼の行う「正義」を恐れた日本政府は、「凶悪なテロリスト」として、彼を排除せんと動きはじめたのだ。
「正義」を行ってきた自分を祝福するべきだ、と思っていた政府に攻撃され、少年はさすがに戸惑いを隠せなかった。
世界から見た少年の姿は、誰もが認める「悪鬼」だったのだ。
この事実に怒り、認めようとしない彼は、自分が「正義」であり、政府こそ「悪」だと信じて疑わなかった。
それゆえ、精神的に半死状態だった恋人の妹まで連れ出して、日本政府との全面戦争に打って出ようとしていた。
しかし、もはや少年に勝ち目はなかった。
機動隊の物量に押される上、戦意のない妹は、戦いに参加しようともしない。
どれだけ強くても、たった一人で勝てる戦争などありえないのだ。
敢え無く惨敗を喫した少年は、傷付いた体を引きずり、表舞台から姿を消してしまう。
その恋人と妹も、彼に付き従う形で世間から姿を消した。今の彼に抗う力など、ないのだから。
一方、日本政府としても、彼らが消えていったのは好都合だった。
「世界中の紛争に介入し、殺戮を重ねていた日本人」の存在を認めれば、国際社会に深刻な支障をきたしかねないからだ。
「正義」を行う少年らが姿を消すとともに、政府も彼らの存在は記録から抹消してしまった。今では、政府の要人ですら彼らのことは知られていない。
――そうして、松霧町から誕生した「ヒーロー志望」の少年が姿を消してから、十年の時が
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