第2部 着鎧甲冑ドラッヘンファイヤー
プロローグ
第49話 ヒーローの終わり
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少女の目に映る世界が、町が、燃えている。
焼け爛れた人々の苦悶の叫びだけが、この世界に轟いていた。
夜の帳は降りているにもかかわらず、彼女を取り巻くこの周辺だけは、昼間のように明るい。まるで、この場だけが世界の理から外れてしまっているかのように。
「……」
彼女は、何一つ喋らない。否、喋るだけの気力すらない。無言を貫き、もう一人の小柄な少女を抱いたまま、虚ろな瞳にこの世界を映していた。
その抱かれている少女もまた、目を見開いたまま人形のように固まっている。だが、死を迎えたわけではない。ただ、「壊れて」いるだけなのだ。
そんな彼女達を囲んでいるのは、瓦礫と死体。人間も建物も、全て一様に、粉々に砕かれていた。
少女達の周辺に、家屋の残骸と共に転がっている肉片の数々は、全て黒い消し炭と化している。生前の肌の色など、判別出来ない程に。
だが、少女達は知っている。この瓦礫の世界が、どのような街だったか。目の前に落ちた肉片が、どのような人々の成れの果てなのか。
――この国が、どのような力に。誰に滅ぼされたのか。
「……凱樹」
今にも消え入りそうな声で、少女は誰にも届かない一言を呟く。もう一人の少女を抱く腕に、僅かな力を込めて。
そして、彼女の死人のような眼は、紅蓮の炎の先に見える巨大な存在へと移された。
そこに立っているのは――人を踏み潰し、焼き尽くし、拳を振るう異形の姿。
形容するならば、「巨人」という言葉が相応しいであろうその異様な影は、自らを囲う炎の中で、踊るように全てを蹂躙している。誰にも止められぬ、絶対的な力を振るって。
怒り、喜び、そうした感情の数々が渦巻き、その動きに現れているようであった。後ろめたさなど、微塵もない。
そう。巨人は、自らの行為に何一つ疑問を抱いていない。彼にとっては、自分自身こそが揺るぎない「正義」なのだから。
「……鮎子」
そんな巨人の在り様を目の当たりにして、少女はさらに掠れた言葉を零すと、静かに視線を落とした。その先には、自らの腕の中で目を開いたまま動かない、例の少女が居る。
彼女は、その小柄な娘に掛けられていた眼鏡を撫でると、啜り泣くような声で囁く。
「……ごめんね? お姉ちゃん、何にも出来なくて。あなたのこと、助けてあげられなくて。ごめんね。ごめんね」
謝罪の言葉は、そのまま呪文のように繰り返された。
夜が明け、火が消え、人々の叫びが止まるまで。巨人が勝利を、確信するまで……。
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