第48話 物語の終わりと、始まり【挿絵あり】
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、それを事実として認識していないことである。
「もー、またそんなこと言いよる! 甲侍郎さんが言いよったことなんやろ!?」
「だから、それは向こうが勝手に言ってるだけだってば。それに、大事なのは本人の意志だろ。アイツが俺なんて好きになるわけないし」
「いーや! 救芽井は絶対あんたのこと狙っとる! 女の六感が騒いどるんや!」
「いや、ねーって。だって、俺だぞ?」
龍太自身にとって、救芽井家が持ち出していた樋稟との結婚という話は、余りに突飛だったのだ。初対面であるはずの大人から、いきなり「婿に来い」と言われて納得するのも難しくはあるのだが。
一年半以上が過ぎた今、すっかりその話を信じることが出来なくなっていた龍太は、自分の性的魅力に自信が持てないこともあって、彼らの言動は「モテない自分を励ますためのドッキリ」だったと思い込むようにしていたのだ。
――救芽井エレクトロニクスが世界的に有名な企業になった今、自分なんかが婿に行ってどうなる? そもそも、住む世界が違いすぎる。あれは、都合のいい夢であり、ドッキリだったんだ。
……それが龍太の胸中そのものであり、今こうしてテンションが低くなっている要因でもある。
だが、その一方で本人にも意識せざるを得ない点がある。
樋稟との、最後のやり取りだ。
「あいつ、婚約者がいるくせに……あんなことして、よかったのかよ」
彼の脳裏に蘇る、口づけの瞬間。そして、目に映る幸せな微笑み。それは到底、「ドッキリだった、演技だった」と割り切るには、苦しすぎる程にリアルな体験だったのだ。
――彼女ほどの人間が自分を好きになるはずはない。しかしそうでなくては、あの行動に説明がつかない。
着鎧甲冑の兵器化を推し進めようとする一方で、救芽井家にも気を遣っていた剣一とは比べものにならないほど、目的や言動が矛盾してしまう。(龍太から見て)考えの読めない樋稟の振る舞いに、彼は頭を抱えるしかなかった。
そんな彼の姿を見た賀織は、龍太が樋稟との結婚を決意しようとしている……そう勘違いして、ますます(勝手に)窮地に陥ろうとしていた。
「……こ、こうしちゃおれん! りゅ、龍太!」
「あん? どうしたよ、急に改まって」
やつれた表情で、机に顎をついて見上げる龍太。告白されようとしている男子高校生とは思えない顔である。
「え、えと、その……こ、こんな場所でこんな時に、言うようなことやないかも知れんけど……ア、アタシ、ずっとあんたが――!」
「お〜いモブ生徒共、席に付けい。一学期最後のホームルーム始めっぞ」
そして、今まさに想いを告げようとしていた少女もまた、運と土壇場の度胸が欠けていたようだった。乱暴にドアを開け、ずかずかと教壇に立つ担任。その適当な言葉遣いを耳に
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