第47話 通学までの道のり
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「ふ〜ん……やったら、お兄さんとは最近連絡取っとらんのん?」
「あ、ああ、まぁな。最近はアイツも仕事が忙しいらしいし」
「そういえば、お兄さんって結局どんな会社に入ったん? 聞かせてくれんけど……」
「お、俺も知らねーなぁ。でで、でも上手くやってると思う、ぜ?」
学校に行く道中、賀織が振ってきた「兄・龍亮の進路」という話題に、龍太は夏の暑さによるものとは違う汗をかいていた。
というのも、大学を卒業した龍亮が就職した先は、世に言う「エロゲー制作会社」であったからだ。
龍太がパソコンを付けたまま「寝落ち」していた原因も、「デバッグ作業」と称して、兄から横流ししてもらったゲームをプレイしていたことにある。
そんなことが卑猥な話題に人一倍厳しい賀織に知れたら、最悪パソコンを破壊されかねないのだ。(本人にとって)最高の娯楽を守るべく、少年は決死の嘘をつき続けていた。
――二人の家から松霧高校に繋がる通学路は、商店街を通るルートになっている。そこに向かうには、賀織の自宅を横切るのが近道なのだが――
「あっ……いかん! 出たらいけんっ!」
「ぐえっ!?」
そこへの曲がり角にたどり着いた瞬間、賀織は突然血相を変え、龍太の襟元を掴んだ。無茶苦茶なやり方で歩行を止められ、首が締まった龍太の喉から空気が飛び出す。
「げっほ……な、なにすんだよ!?」
「シッ! お願いやから、静かにしといて!」
「お、おぉ……」
歳不相応なほど艶やかな唇に、細い人差し指が触れる。沈黙を命じるそのサインに、龍太は訝しみながらも了解した。
賀織はその返事に頷くと、険しい表情で、曲がり角の先にある我が家の方を凝視した。彼女が何をそこまで警戒しているのか……それが気にかかった龍太は、賀織の後ろに回って彼女と視界を重ねる。
――そこには、「矢村」という名札のある一軒家の門前に立つ、ガタイのいい壮年の男性がいた。角刈りの髪に、割れた顎、鋭い眼光。野生のサルでも本能的に逃げ出してしまいそうな程の巨漢が、住宅街に佇んでいる光景は、なかなかにシュールである。
さながら不動明王のような風貌を持つ彼は、一歩もその場を動かずに、ジロジロと辺りを見渡している。巣を守るスズメバチのように、その眼差しは鋭い。
「お、おい、あのキレた仏様みたいなオッサンってまさか……」
「うん……アタシのお父ちゃん。武章って名前なんやけどな」
「やっぱり矢村の親父さんか……。なんであんなところで見張ってんの? ていうか、別に俺達悪いことしてるわけじゃないんだし、コソコソすることないじゃん。むしろ友達の親父さんなら、こっちから挨拶しとかないと」
賀織の父――矢村武章が、なぜあれほど自宅前を警戒しているの
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