第47話 通学までの道のり
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なく人を殴るから……」
「コエーな!? お前ん家の家庭事情どうなってんだよ!?」
龍太をこの場から引き離す理由付けのためとは言え、変な汚名を着せてしまったことに心の中で謝りつつ、賀織は愛する少年の手を引いて逃避行へと繰り出していく。
「お父ちゃん……ゴメン!」
◇
かくして、矢村武章という壁を乗り越えた二人は、松霧高校へと繋がる商店街までたどり着いた。
……のだが、そのために遠回りをしたせいで、かなり時間が押して来ていた。二人は真夏の日差しに照らされ汗を流し、商店街を駆け抜けていく。
「ハァ、ヒィ……ちょ、ちょっとタンマ! 矢村さん早すぎぃ……!」
「頑張れ龍太っ! ここを出たらすぐ学校やけんなっ!」
「んなこと、ハァ、言ったって……!」
武章の待ち伏せさえなければ、今頃はとっくにクラスの席についていたはずの二人。汗水流して走る彼らを、年配の住民達は温かく見守っていた。
「お〜う、龍太君に賀織ちゃんや、相変わらずお熱いのぅ」
「おじいさん、それ洒落になっていませんよ」
「ふぁふぁふぁ! 爺さん、こいつぁ一本取られたのぉ!」
穏やかに手を振る住民達に挨拶を返しながら、龍太達は懸命に足を動かす。夏の暑さと急激な運動で、汗がベッタリとシャツに張り付いていた。
しかし今は、それに気持ち悪がっている暇すらない。ようやく商店街を抜け、学校が見えてきたというところで、今度は商店街周辺の交番に通り掛かった。
そこに立っているのは、もちろん例の警察官である。
「おおっ! 龍太君に賀織ちゃん、おはようっ! 朝から頑張るねぇ、精が出るねぇ!」
「おはようお巡りさん! ……って言いたいとこだけど、俺達遅刻しそうなんだよ。またな!」
「はいよー! 龍亮君にもよろしくねぇー!」
一瞬だけ立ち止まって軽く挨拶を交わし、龍太は急いで先を走る賀織を追っていく。そんな二人を微笑ましく見送るこの警察官は、巡査長への昇進を来年に控えていた……。
◇
そして二人がついに、松霧高校の校門を突破した時、彼らを急かすように予鈴のチャイムが鳴りはじめていた。
「まっず!」
「はよ行かんと遅刻してまう! 走ろ走ろ! ていうかみんな見とるし!」
グラウンドをたった二人で疾走する龍太と賀織に向けて、教室の男子達から視線の集中砲火が降り注ぐ。片方にはアイドルへの敬愛を。もう片方には、にっくき色情魔への憎悪を込めて。
――本人達にとっては、これも見慣れた日常の一幕であった。そしてそんな日々が当分は続くのだろうと、龍太も賀織も思っていたのだ。
少なくとも、終業式が終わる頃までは。
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