エピローグ
第46話 一年半の月日
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
二人で帰る。世間一般の価値観で見て、高校生のカップルがやりそうなことを片っ端から実行しだした。
恋愛に関しての不器用さは、樋稟に勝るとも劣らない彼女。恥じらいと断られる恐怖から、告白だけはしないままだが、それ以上に男心を掴めるようなアプローチをしようと、日々奮闘を重ねているのだ。
自分の容姿に劣等感を抱く龍太には、それが恋心から来る行動であると気づく気配がないのだが、それでも彼女には一向にめげる気配がない。
あのクリスマスイブの夜に見た勇姿は、矢村賀織という少女の心を、いたく釘付けにしていたのだ。
だが、そんな彼女の「女子力」は、龍太の高校生活を窮地に追い込む結果を招いた。
元々、地元の中学で頻繁に話題に上がっていた、アイドル的美少女である彼女は、高校でも大勢の男子達から人気をさらっていた。
靴箱にラブレターやプレゼントは日常茶飯事。彼女の顔を一目見ようと、学年の違う生徒までが教室前の廊下に集まることすらあった。
それほどの求愛を集めている彼女が、一人の男子にベタベタなアプローチをしている。しかも、その本人は恋愛的な好意であることに気付いていない。
その上、その男子は美男子でもなく、勉強や運動が素晴らしく秀でているわけでもない。能力や容姿で言えば、端から見て賀織と釣り合う男には到底見えないのだ。
にもかかわらず、当の彼女はその男子に一途な寵愛を注ぎ、甘く熱い視線を送り続けている。そんな光景を日常的に見せ付けられていた男子一同は、ある一点の感情に団結する。
つまるところ、龍太への嫉妬である。
賀織の靴箱に入れられたラブレターの数だけ、彼のそれには画鋲が仕込まれ、昼食後には必ず体育館裏に連行され袋だたき、という毎日なのだ。男子からは嫉妬され、女子からは仕打ちに同情され。いろいろと思春期には辛い青春であると言えよう。
龍太からすれば、恋人でもない女の子からちょっと良くしてもらってるというくらいで、日常的に暴行を受けているとしか思えない状況であり、真っ当な青春を送れているという感覚は持てずにいた。
そんな日々が続けば、当然ながら友人を作る機会など失われてしまう。中学時代には、それなりに気の合う友人もいたのだが、今となっては周りの男は嫉妬の鬼だらけ。
地元の高校ゆえに知り合いもいたのだが、彼らも結局は賀織を優先し、龍太にやっかみを飛ばすようになっていた。
中学時代の時点でも、賀織との絡みが多かったせいで男子から顰蹙を買うことはままあった。
それが高校に入っても続き、それどころか明らかに激化しているのは、ひとえに賀織のアプローチがパワーアップした証と言えるだろう。
結局、龍太は高校に入ってからの一年間、男友達すら作れない、ろくでもない灰色の青春(本人談)を送る羽目になっていたのだ。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ