第45話 終わりよければ全てよし
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が聞こえて来る。どうやら、かなり時間が押して来ているらしい。
しかし、当の呼ばれている本人は返事をしない。あれだけ家族を大切に想っていたのに、珍しいな。
……というよりは、返事に気が回らないのか? 胸倉の辺りをギュッと握りしめ、頬を僅かに染めている。
「――きゅ、救芽井?」
その時、彼女を取り巻く空気の色が変わった。
今まで以上に潤んだ瞳。恍惚とした表情。突然見せたその顔に、俺は我を忘れて釘付けになってしまう。
そして――
「じゃあ、お詫びもかねて……クリスマスプレゼント、あげるね。――『龍太君』」
彼女の顔が、視界から消えた。
正しくは、目に見えない場所に動いたのだ。俺の、左頬へと。
次いで、その肌に伝わって来る、柔らかい肌が触れる感触。そこから伝導される温もりに、思わず骨抜きにされそうになる。
俺の頬に顔を寄せた彼女から、直に通じ合わされた肌と肌の繋がり。
それが意味する現実に、俺の思考回路が追い付く頃には、彼女はもうトラックへと乗り込んでいた。
「――ねぇ、私、笑えてる?」
俺を見つめ、車窓から顔を出す彼女は、頬を紅潮させながらも――笑っていた。
もう、文句の付けようがないくらい……朗らかに。
「あ、うん……スッゴくいい笑顔、だよ」
「そうなんだ……ありがとう。私、あなたのおかげで、幸せです」
抑えている恥じらいが滲み出ているが、それでもかわいらしい笑顔は健在だ。その笑みに見とれているうちに、トラックが発進しても、手を振ることを忘れてしまうくらいに。
「お〜い! またなぁ〜古我知さ〜ん!」
隣で兄貴が手を振っていても、俺はただ呆然と立ち尽くし。
「婿に取る心構えは、出来たか?」
「うん……ありがとう。お父様」
そんなやり取りがあったことを、知る由もなく。
――こうして、俺のちょっと日常から外れた冬休みの一時は、雪と共に溶かされて行くのだった。
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