第45話 終わりよければ全てよし
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井は可笑しそうにコロコロと笑う。「楽しそう」というよりは「幸せそう」という表現が似合いそうな笑顔だが――まぁ、喜んでるならマシってことだろう。
すると、このクリスマスツリーがある中央地点一帯に、穏やかな音楽が流れはじめた。
下流の川を流れるような、優しい音色のバイオリン。肌を撫でる緩やかな風を思わせる、ピアノの演奏。
町の人々を癒すはずのそのBGMは、俺の心にグサリと突き刺さるのだった。
――眼前のカップルや若い夫婦達が、音楽に乗って踊りはじめたからだ。
周りに見せ付けるかのように派手に踊るカップルもいれば、初々しく恥じらいながら踊る若夫婦もいる。
「えっ……こ、これは?」
「ハァ、とうとう来やがったか……この時が」
そう、この町で行われるクリスマスに、ここまで気合いが入っているのは――ひとえに、このイベントのためにあるのだ。
「……これは見ての通り、出来立てホヤホヤの恋人達をもてなす、ダンスパーティさ。この松霧町の、数少ない名物ってとこか?」
救芽井に軽く説明した後、俺は思いっ切りため息をつく。これがいわゆる、「カップルお披露目」の祭典だからだ。
言うまでもないが、このイベントはカップル限定である。孤高の野郎共にとって、この場所は噴水広場という名の、血の池地獄でしかないのだ。
俺がここに救芽井を連れ込んだのは、彼女と踊るため――とはいかなくても、せめて「雰囲気くらいは味わえるかも」という淡い期待を胸に抱いていたからだ。
……だが、それすらも俺には程遠い。実際に来てみて再認識させられたが、全然そんなムードじゃねぇ! 救芽井とか、ぽけーっとダンスを眺めてるだけだし!
「異性」を意識しないように気をつけているつもりだったにもかかわらず、こんなところに来てしまう辺りからして、どうも俺は煩悩に弱い人物だったらしいが……これはさすがに愚行過ぎた。
あぁ……「俺と踊るかい? ハニー」とか言えるわけないし、かといって何のアクションも起こさないままだと、目の前のダンスに精神が蝕まれる一方だ!
くそっ、もうこうなれば、この場から脱出するしかない! 総員退避! 退避ーッ!
「こ、ここにいたってしょうがないし、別のとこ行ってみるか!」
俺は救芽井の手を取り、このカップリング亜空間から離脱するべく立ち上がる。
すると――
「ふえっ!? お、踊るの?」
彼女は小動物みたいに肩を震わせ、シモフリトマトみたいに真っ赤な顔で俺を見上げた。
――お前は何を聞いてたんだァーッ!?
さっき「ここから移動しよう」という旨を口にしたばっかだぞ!? どんだけ上の空だったんだコイツ!
ていうか今度は「一緒に踊る」ムードに早変わりしてるし! 諦めて場所を変えようとし
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