第35話 一時間前の特訓
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たんじゃと」
――そんな俺の情けない逃げ道は、ゴロマルさんの核心を突いた一言に、あっさりと封じられてしまった。
救芽井は、この町のスーパーヒロインと持て囃されていながら、実際は「王子様」に救われる「お姫様」になりたがっていた。それは、短い時間ながらも彼女と過ごした俺には、十分過ぎるほど伝わっている。
「普通の女の子」としては、きっと当たり前の……「お姫様願望」。その気持ちが現れている顔は、「訓練や戦いがどうとか」みたいな「理屈」なんてなかった。
そんな彼女が、俺に助けを求めている――か。どうやら、運命の神様はとことんシチュエーションというモノにこだわるらしい。
「樋稟ちゃんはさ。俺じゃなくてお前に助けてほしいんだよ、きっと。理屈じゃなくてさ」
「……理屈、か」
俺の胸中を何となく察したのだろう。兄貴は、見透かしたような口調で俺の肩に手を置き、優しく諭すように語り掛けてくる。
理論や効率なんて関係ない、彼女自身の気持ち――か。なんでまた、俺みたいな冴えないヤツに助けを乞うのかね……「お姫様」ってのは、とんでもない物好きらしい。
「りゅ、龍太っ!」
「ん?」
「龍太。アタシ、救芽井のことでずっと迷ってばっかりやったけど……救芽井ん家やお兄さんがこんなに頑張っとるんやったら、もうウジウジすんのは――やめたい。アタシ、龍太のやること、信じるけん!」
矢村まで、俺の背中を押すようなことを言う。おいおい、お前みたいな娘にそんなこと言われちまったら――
「――血ヘド吐く気でやるしか、なくなっちまうだろーが……」
目の前に突き出された「勝機」を前に、俺は両手の拳を握り締める。ゴロマルさんも、兄貴も、矢村も、救芽井のために俺を信じようとしている。
――俺も、救芽井を助けたい。出来るもんなら。
そして、そのための手段があると言われたら……縋れずにいられるか?
「……頼む、兄貴。最後に少しの間でも、俺に稽古を付けてくれ!」
俺は――無理だ。
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