第32話 ヒーローは遅れてやって来るもの?
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永遠に、というわけではないさ。僕が着鎧甲冑を世界に広める間、君達一家には大人しくしてもらいたい……というだけだ。それに――恩を忘れた覚えはない。僕は君のご両親に救われたが故、彼らのためにできることは何でもするつもりだ」
「それが――あれだと言うの!?」
救芽井は縛り上げられた状態のまま、首の動きである方向を指す。
ただの壁を指してるように見えるんだが……どういうこった?
ここからじゃ、それがなんなのかはよくわからないし、何を喋ってるのかも聞こえないのだが……表情を見る限り、かなり深刻そうだ。
「お父様やお母様にあんなことをしておいて、よくも……!」
「まるで僕が殺してしまったかのような言い草だね……ただの冷凍保存だよ。メディックシステムの医療機能を改修し、人体をコールドスリープさせるカプセルに改造したってだけさ。あそこにいるご両親も、全てが片付けばじきに目覚める。彼らにとっての全てを忘れた上で、ね」
「なぜ、記憶を消すなんてっ……!」
「自分達が何をしていたか覚えていれば、悔いが残るだろう? 君達のような、科学者の集まりは特にね。このために電力確保用の強靭な発電機を用意して、かつ食費を『一日一個のカップ麺』まで絞りつくした僕の苦労も考えてもらいたいよ」
……何を話してるのかは知らないが、雰囲気でフィニッシュが近いような感じはしてる。
情けは掛けていても、記憶を消すことにはためらいがないようだし――このままじゃあ、俺が出る前に救芽井が……!
「だから、もういいんだ。君達はなにもしなくていい。全て僕の手で――着鎧甲冑を形にするッ!」
俺が「救済の先駆者」に着鎧するタイミングを見出だせないまま、ついに古我知さんが動きを見せた。
彼は救芽井を縛る黒い帯を掴み上げると、彼女ごと思い切り投げ飛ばしてしまった!
「ああああっ!」
悲痛な叫びと共に宙に投げ出された彼女は、成す術もなく壁にたたき付けられてしまう。
「……うおおおおおッ!」
「りゅ、龍太っ!?」
俺は、もう限界だった。
理屈じゃない。感情が、今の状況を見過ごすことを許さなかった。
矢村の制止を聞き入れることもなく、俺は足にエンジンでも積んだかのような勢いで駆け出していた。
――そして彼女の身が、俯せに地に着いた頃には。
「救済の先駆者」は、松霧町のスーパーヒロインは、ただの少女……救芽井樋稟の姿になっていた。
着鎧が解けた今でも縛られている、彼女の目と鼻の先には「腕輪型着鎧装置」が転がっている。古我知さんは悠然と、それを拾い上げようとしていた。
「うっ……ぐ、ひうっ……!」
「あんなに気丈な君の泣き声なんて、滅多に聞けないね。でも、大丈夫。もうすぐ、全てを忘れられるからね」
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