第31話 自分より速い女の子に、フラグが立つわけがない
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強盗ん時だって、アタシはてんでダメやったし……」
「矢村、お前……」
「だから、せめて傍にいたい! なんかあったら見捨てたってええから、お願いやから、あんたの傍にいさせてや!」
――おいおい。なんてこと言いやがる。
コイツ、自分を何だと思ってんだ? この(世間一般の視点に立てば)平和なご時世からして、この娘だってちゃんと家族はいるだろうに。
彼女になんかあったりしたら、家族がみんな悲しむだろうが。それに……俺なら、それよりもっと悲しむ自信がある。
俺なんかのために、この娘を傷つけたりしてたまるかよ!
「バカ言うんじゃねーよ。どうまかり間違ったって、見捨てられるわけないだろ! 俺はそこまで、ドライにはなれそうにないんで」
「龍太……!」
身を起こし、矢村はほんのりと頬を染めながら俺を見上げる。こう上目遣いされると、つい甘やかしたくなるんだなぁ……煩悩、退散ッ!
「そんなに言うんだったら、もう張っ倒してもついて来そうだし……俺からは何も言えねーな。言っとくけど、どうなっても知ら――」
そこで「どうなっても知らんぞ」という言葉を飲み込み、俺は疲れだけのせいじゃない、心臓の強い脈動を全身で感じながら……精一杯の気を利かせた。
「……いや。どうなっても、お前を守ってやんなきゃな。さぁ、行くか!」
俺はすっかり筋力を回復させた両足で、積もりに積もった雪道を駆けて廃工場を目指す。ズブリと爪先まで沈み込む純白を踏み越え、俺は「お姫様」が待つ戦場への道をひたすら走って行った。
ふと、その最中にチラリと後ろを見てみると、そこには俺を熱い眼差しで見詰めつつ、いつになく元気に走る矢村の姿が伺えた。
以前まで見た表情とは比にならないくらい、やる気に満ちた面持ち。その瞳がわずかに潤んでいたのは、果たして気のせいだったのだろうか。
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