第29話 いざとなると、言葉が出ないもの
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「変態君……」
ドアを開いたところで、出会い頭に視線がぶつかる俺達。いきなりの展開に、あっちもこっちも言葉が出せないでいた。
「あ……きゅ、救芽井! どこ行くんだよ!?」
――そんなこと、聞くまでもない。戦いに行くつもりだったに決まってる。
それでも俺は、尋ねずにはいられなかった。勝ち目のない戦いに身を投げようとしているなんて、考えたくもなかったから。
「どこ……って、決まってるじゃない。廃工場よ」
しかし、返って来た答えは残酷なほどに至極まっとうなものだった。既に辺りは暗くなり、「夜」と見て差し支えない景色になっている。
こんな状況で、戦うことの他に用事があると考えるバカが、俺以外のどこにいるというのか。
それよりも俺の心に突き刺さったのは、質問に答える彼女の顔だった。
笑っていたのだ。満面の笑みではなく、どちらかと言えば「しょうがないなぁ」という苦笑に近い。
頼る仲間がいない今、彼女は強盗の時のように泣くことすらできない。せめて心配させないよう、作り笑いをすることしかできない。
今にも消え入りそうなほどに、儚い印象を受けるその笑顔からは、そんな彼女の「限界」がありありと浮き出ているようだった。
「廃工場――って、場所わかんないだろ!? それに、勝てる見込みは見つかってないって言ってたじゃんか!」
「そ、そうやって! べ、別に、今すぐ戦わんでもええやん!」
無駄なことだと頭ではわかっていても、口は思考に反して動き出す。なんとか彼女を引き止める口実が欲しくて、俺は見苦しいくらいに彼女を説得しようとする。
その上、非情な現実を前にして良心の呵責が激しくなったのか、あれほど救芽井を責め立てていた矢村までもが制止の言葉を投げ掛けていた。
こんな争い、あっていいわけがない。
勝ち目もなしに、ただ理不尽な力で蹂躙されて終わる……そんなの、無茶苦茶だろーが!
「ありがとう……心配してくれて。廃工場ならおじいちゃんが調べ出してくれたから、平気よ。矢村さんも、わざわざ見送りに来てくれて、本当に――」
「み、見送りなんて! アタシはただっ……!」
「わかってる。変態君にはあなたがお似合いだものね? 彼の恋人でもないくせして、変にでしゃばってごめんなさい」
「きゅ、救芽井……?」
何の話かは知らないが、どうやら二人は本当に仲たがいしてしまったわけでもないようだ。彼女の寛容さには、頭が下がる。……俺には相変わらず変態呼ばわりだけども。
「――ねぇ、変態君。前にあなたが選んでくれたウサギさん、覚えてる?」
「ん? あ、あぁ。そりゃこないだのことなんだし」
そういや、あのおばあちゃんの話によれば、救芽井はあそこでウサギのぬいぐるみをもう一個買ったらしいが
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