第29話 いざとなると、言葉が出ないもの
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……。
「あれ、お店のおばあちゃんが教えてくれたんだけどね……あそこに飾られてた二匹のウサギさん、つがいのイメージで置かれてたんだって」
「へぇ〜……つがいってことは、オスとメスに分かれてたってことか? てっきり兄弟みたいな意味合いかと……」
つーか、ぬいぐるみにオスもメスもあんのか……? まぁ、人が作るもんには魂が宿る――みたいな話も聞いたことあるし、案外男の子と女の子の霊魂とか込められたりしてんのかもな。
「前に君が選んでくれたのって、女の子だったんだって。その片方だけじゃぬいぐるみさんも寂しいと思うから、男の子の方も――さっき買ってきちゃったんだ」
「そうなのか――って、なんでそんなことを?」
「……言わないと、わからない?」
なにかシャクに障るようなことでも言ってしまったのか、救芽井は恥ずかしそうに顔を逸らす。暗がりでもわかるくらい、彼女の頬が赤い。
「もし女の子が、なにかあって思い出をなくしちゃっても――その男の子が隣にいてくれたら、きっと支えになってくれるって……そう思ったから」
「……え?」
「私は、なにもかもなくしちゃうかも知れない。それでも……せめてぬいぐるみさんには、好きな男の子の傍にいさせてあげたかったんだ」
「お、おい救芽井? どういうことだよそれ?」
なんかものすごく大事な話をされてる気がする。彼女の周りに漂う雰囲気が、それを物語っている。
なのに、そのニュアンスがイマイチ掴めない。ぬいぐるみと自分の話がごちゃまぜになっていて、彼女が何を言いたいのかが不鮮明だった。
「私の言ってること、わからない?」
そんな俺の無理解が顔に出ていたのか、救芽井は俺の胸中をアッサリと見抜いてしまう。
変に嘘をついてごまかせる空気じゃないのは確実なんで、俺は申し訳なさげに目を伏せることしかできなかった。
「そっか……前々から思ってたけど、君って本当に鈍いのね」
「ク、クラスの連中からもたまに言われる」
「矢村さんのことね。あなたったら、本当に罪なんだから」
子供を叱るお母さんみたいな口調で、彼女はフッと笑いかけて来る。矢村のこと……? なんで彼女がそこで出てくるんだろう?
「だけど……」
そこに気を取られている間に、彼女は俺の脇をすり抜けていた。
表情こそ見逃したが――声はひどく、震えていた。
「私の気持ちだけは、わかってほしかったな。せめて、今夜だけでも」
その意味を問う暇も、考える時間もなかった。
彼女は俺と矢村を抜き去って道に出ると、勢いよく駆け出しながら、素早い動きで例の変身ポーズを決める。
「――着鎧甲冑ゥッ!」
そしてその掛け声に応じ、彼女の全身は一瞬にして「救済の先駆者」のボディに包み込まれた。勇
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