人狩りの夜 3
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て危機意識が生じた。
合成魔獣を倒すだけの実力を持つ者が、館に侵入してきているのだと。
「これはおどろいた! あのような華奢な乙女が、かの牛頭人身の魔人を屠るとは、このマスク・オブ・イーグル、感嘆の極み!」
「ははは、初戦の賭けは私の勝ちですな」
あまり危機意識を持たない者もいた。
「ううむ、まさかペルルノワールがあそこまで強いとは、あの華麗な剣さばき。闘技場の剣闘士でもあのように動ける者は限られているぞ」
「まさかとは思うが、やつらここまで来ないだろうな」
「なぁに、まだ最初の一匹がたおされただけ。お手持ちのカードはまだまだあるのでしょう、館主殿?」
「ハイエナ卿のおっしゃるとおり。まだまだお楽しみはこれからです」
クェイド侯爵は内心の動揺をさとられないように、ことさらおもむろに魔方陣の操作盤に手をのばした。
魔方陣が光り輝き、次なる魔獣を呼び出した。
水牛ほどもある巨大な黒い獅子――。
いや、獅子ではない。
体の前半分が獅子、後半分が黒山羊で、背中から山羊の頭を、尾の代わりに大蛇が生えていた。
シャンデリアから照らされる魔力灯の下で、艶のある黒い体毛が煌めき、獅子のたてがみは黒い炎のようだった。
たてがみの後にある角の生えたもうひとつの獣の、山羊の顔。鎌首をもたげる大蛇の顔。
それぞれの顔から王者の余裕と、賢者の思慮、殺人気の冷徹さを感じさせた。
「キマイラ!」
「おお、これがあの有名なテュポーンとエキドナの子――じゃなくて『最初の合成獣』か」
キマイラ。魔術師たちが創造した最初の合成獣といわれる、合成獣の代名詞のような存在。獅子の頭からは灼熱の息吹を、山羊の頭は数多の呪文を、蛇の頭からは毒を吐き出す、おそるべき怪物。
「西洋風の『鵺』か。タイプ・キマイラどころか、ザ・キマイラだな」
異形ではあるが、醜悪ではなかった。いや、美しいとさえ言えた。ただし、それは恐怖と狂気によって彩られた美しさだ。
名匠によって鍛えられた剣の冴え冴えとした輝きが見るものをぞくりとさせるように、キマイラからは戦慄に満ちた美を感じられた。
「きわめて不自然な造形にもかかわらず、妙に合っている。これは、異形の美だ」
「あなたの感性もまんざら間違ってはないわ。グリフォンやワイバーン、キマイラを紋章に使う貴族は多いから」
「よし、今度は俺の番だな」
「素手であの怪物と渡り合うつもり?」
「指先は寸鉄、腕は白刃、足は槍。それが空手だ」
「まぁ! 翁とおなじようなことを言うのね」
「翁?」
「ええ、知り合いの魔闘術使いのおじいちゃん。わたしに武術とか教えてくれる人よ」
「なるほど、たいした体術だと思ったが、やはり
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