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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十六話 家門と家族と栄誉
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次女の茜も父から伯爵家の利益代表者として振る舞えるよう教育を受けている。
紫を娶った芳州子爵は領土を皇家に返上、つまりは天領化させてしまい鉱山経営に専念するようになり、すでに精製や加工、建設にも投資を行っている。そして茜は――本来であれば最低でも准将、少将まで軍政、情報畑を耕しえた――或いは内務省の地盤を義父より引き継ぐかたちで転属も検討できる器用さがある中興をなしつつあった五将家重臣の一粒胤に娶られる予定だ。であるからこそ物柔らかな性格の弟――葵を外務省に入庁させたのだろう。
――だがこれも推測、ただ父を観続け、考えただけの推測だ――父は私達に自身の考えを語る事はない。受け継ぐのは未だ年若い葵であり娘達ではないからか、馬堂家への傾斜の裏で何かを仕込んでいるからか――
漠然とした不安が徐々に形を成してゆく――碧はまだ幼い、この戦争が何かを変えたとしたらそれに一人で直面する事になりかねない。父はその時どうするのだろう。優しい父ではあったがそれは政にかかわらないでいたからだ。

茜は静かに考える、豊久に相談してみるべきか――彼と義理の妹のことについて私人として話すべきか――彼も政治にかかわる貴族の英雄として口を閉ざすべきか。



皇紀五百六十八年 八月二十七日 午後第七刻 皇都視警院 記者室
新星新聞 社会部皇都視警院担当班 記者 平川利一


 ほう、と煙を吐き出してそれを睨みつける。三年前まで平川利一は将校であった。将家の出ではない。背州の合資商会を切り盛りする大番頭の長男だ。地元の繋がりやら父の後援やらをうまく使い、どうにか早々に中尉時代に兵部省の広報室の主任役として原稿作りやら記者との折衝やらを担当し、いくつか面倒は付きまとったがそれをうまく納めて将家の上官から良い推薦状を受け取って退役する事に成功した。
 父の仕事を継ぐはずが新しい事業として背州の大都市である星崎を中心とした背州の地域新聞である新星新聞の立ち上げに関わる事になり、気づいたら皇都に出戻りをする羽目になっていた。

「どうもセンパイ、どうですか」
 昨年から本院付きとなった後輩記者の坂上だ。何かと気が利くので重宝している。
「どうですかって何がだよ」
 急速に高騰している馬の売買を悪用した大規模詐欺組織の一斉摘発の記事を仕上げたばかりだ。
「戦争ですよ、私もいつ招集がかかるか分かったもんじゃない」連絡先一覧を指でなぞる、龍州総局の住所が横線で消したばかりだ、今は違和感があるが北領の時と同じようにすぐに慣れる――慣れてしまうのだろう。

「なんだ、お前もヘータイやってたのか?」そういいながらガサリ、と本来なら夜が明けてから背州で読まれる刷りたての紙面に目を通す。

「都護の聯隊でひどい目に遭いましたよ、年下の少尉殿があっさり目の前で討死して死
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