第四部五将家の戦争
第六十六話 家門と家族と栄誉
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成立した理由が自身の所有していた牧場の価値だけではなく自身の蔵書を馬丁達にまで開放していた事で磨かれていた“家臣”らの価値があってこそ重用されたからだという事を――少なくとも美談としてそう記録していることを忘れておらず、また民衆にも忘れさせるべきではないと考えていた。
豊久はそれでよい、と考えていた。“自分の役目は馬堂家を社会機構に上手く組み込むことだ。それも可能な限り恨みを買わないように”それが一番良い事だと、この戦争が始まるまでは――
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皇紀五百六十八年 八月二十六日 午後第三刻
故州伯爵弓月家上屋敷 弓月家次女 弓月茜
開封したばかりの手紙に目を通す。そこには謝罪と弁明と詫びが散りばめられている。潔いというかいっそ哀れさを感じさせる文面である。
許嫁であり、戦争の英雄の一人である馬堂豊久中佐が書いているとは彼と親しい人間でなければ信じるまい――敵軍の半数を一時的に潰走させたことで大敗を防いだ龍口湾の英雄である西津中将、近衛を駆り立てて戦姫に剣牙虎の牙を突き立てんとした新城少佐、この二名からは一歩譲るが馬堂豊久中佐も騎兵連隊を打ち倒し、西津中将の大反攻によって追撃を鈍らせ、第三軍の勲功第一として挙げられている。若手貴族将校の中ではもっとも衆民に名を知られている男だろう。
かさり、と手紙の立てる音が部屋に響いた。妹と自分、そして以前より若者が居なくなってしまった使用人――静かなものである。
彼の勲功は祝福するべきなのだろう、しかしそれ以上に無事に帰ってきたというだけで私人としては十分過ぎる良い報せだ、茜は政治的な思惑を肯定したうえで妙なところで潔癖な年上の青年を好んでいた。もちろん何も考えずに恋愛をできるかといえばそのような事はまったくない事も豊久は理解しているだろう。それでも潔癖さは消えることはなかった。幾度か死にかけ、生還する中で茜と向き合う覚悟をきめつつあるようではあるがそれもまた公人としての判断である。
――この戦争が始まった事で馬堂家との関係も全く変わってしまった。兵部省の要職を担った豊守と内務省第三位の伯爵家当主、そして英雄として特に若手貴族将校からの名望を――新城直衛への反発もあり――集めている馬堂豊久。将家社会への影響力を持つ古参憲兵将校であった馬堂豊長。そうそうたる顔ぶれであっても五将家に比すれば地盤は脆弱でありそれでいて出る杭となり政争の中で団結する事で危険も利益も高まっている。元から重臣団の閨閥を超えた横のつながりは重要であったが中央政府への集権化が行われている事でいよいよ不可欠のものになりつつある、それが無ければ重臣として担うべき実務をこなせず転落する事すらありうる。弓月家などは其れを利用して万民輔弼令以降に内務省内で台頭した口である。男子の産まれが遅かったこともあり、長女の紫も
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