第四章
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「ビルマに行って来る」
「あの、まさかですが」
「内戦を仲裁に行かれるとか」
「そんなおつもりですか?」
「そうだ、私なら出来る」
その内戦の仲裁にというのだ。
「あそこの指導部には懇意だった奴も多い、だからだ」
「行って来てですか」
「そしてですか」
「仲裁に入って」
「内戦を止めますか」
「そうしてくる、今からな」
「あの」
すぐにだ、周りは力強く言う辻に呆れながら言った。
「危ないですよ」
「下手したら捕まりますよ」
「お一人で寸鉄帯びず行かれるんですから」
「あそこは危ないですよ」
「本当に死にますよ」
「そうなりかねませんよ」
「大丈夫だ」
辻は止める彼等に淀みのない声で答えた。
「私は必ず生きて帰って来る」
「それで説得してですか」
「そして、ですか」
「内戦を止めてくる」
「そうされますか」
「絶対にな、では行って来る」
こう言ってそしてだった、彼は周りが止めるのも聞かず内戦が行われているビルマに行った。そして。
行方不明になり帰って来なかった、行方不明だがやがて死亡扱いになったがその彼についてだ。
止めた者達も知っている者達もだ、こう言うばかりだった。
「凄い人だった」
「ある意味においてな」
「能力はあったんだが」
「如何せん気質が」
「悪人ではなかったにしても」
絶対悪と言った作家もいるにはいた。
「破天荒過ぎた」
「何をやってもな」
「参謀には向かなかった」
「というか何で参謀になったんだ」
「それがわからないな」
こう言うのだった、彼を知る者達は。
「前線指揮官だったらよかったが」
「人間向き不向きがあるが」
「あそこまで参謀に向かない人もいなかった」
「参謀でなかったなら」
「もう少し周りの状況を見る人だったら」
「自分を抑えることを知っている人だったら」
ある意味において残念に思うのだった。
辻政信という人物については今も色々と言う人がいる、特に日本軍を嫌う人達からは。しかしその実像は決して悪人でも無能でもなかった、ただあまりにも一本気で己を曲げず今で言う空気を読めない人物であった。信じられないまでに。
そしてさらに信じられないことに全く向いていない参謀になってしまい信じられない結末を迎えた、彼の人生を調べていると信じられないことばかりだがこうした人生を送った人間もいるのが人間の歴史というものということか。信じられないことに。
信じられない話 完
2017・7・14
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