暁 〜小説投稿サイト〜
信じられない話
第二章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「戦場は山も川もある、しかしだ」
「困難だからといって避けるとか」
「それではどうにもならない」
「だからか」
「そうだ、乗り越えてみせる」
 絶対にというのだ。
「そして実家まで帰ってみせよう」
「本気なのか」
「本当にそうしてか」
「家に帰るのだな」
「貴様の実家まで」
「俺は今言った」
 つまり約束したというのだ。
「必ず帰ってみせよう」
「遭難しなければいいが」
「そうだな」
「生きて辿り着ければいいが」
「そうなればな」
 同期の者達はそんなことが出来る筈がないと思っていた、市ヶ谷から富山まで一直線に歩いて帰るなぞ。
 だから辻とはもう会えないのではないかとさえ想っていた、しかし休暇が終わった時だ。
 辻は無事に士官学校にいた、それで彼等はその辻に対してまさかという顔で尋ねたのだった。
「本当にやったのか?」
「ここから富山まで一直線に帰ったのか」
「そうしたのか」
「そうだ」 
 辻は彼等に胸を張って答えた。
「俺はやり遂げたぞ」
「本当にやったのか」
「富山まで歩いて一直線で帰ったのか」
「そうしたのか」
「そうだ、やろうと思えば出来るのだ」
 今度は左手を拳にして言うのだった。
「そうしたこともな」
「よくやったものだ」
「それはまた凄いな」
「貴様は凄い男だ」
「実にな」
 同期の者達は感心していた、だが。
 このことからだ、彼等はあらためて言った。
「確かに凄いことだが」
「突拍子もないな」
「普通しない」
「確かに作戦では進軍で山も川も越えるが」
「普段はそこまでしない」
「あくまでそうせざるを得ない時だ」
 その時だけのことだというのだ。
「それで何故今する」
「凄いことだが何かが違う」
「辻はそうした奇抜なことばかりする」
「そして己を決して曲げない」
 だからこそやり遂げたのだが、というのだ。
「しかしな」
「それは前線指揮官としてはいいだろう」
「スパイにしてもな」
「しかし参謀としてはどうか」
「成績がいいと優先的にそちらになるが」
「あの男はどう考えても参謀に向かない」
「性格的にな」
「ああしたタイプは無茶な作戦を立てる」
「自分の身体を基準に作戦を考えてな」
 そのうえでというのだ。
「あの男は参謀には出来ない」
「そこを人事が見てくれればいいが」
「幾ら成績優秀で能力が高くとも」
「正義感が強く平等にもこだわるが」
 それでもというのだ。
「無茶ばかりしてそれを誇る」
「周りの雰囲気も全く見ようとしない」
「そんな奴を参謀にしたらどうなるか」
「言うまでもないが」
 辻を知る者達は誰もが危惧していた、彼が参謀になれば大変だと。そして彼等の危惧は当たり。
 辻は参謀になった、だが彼
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ