第四章
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「そこまでか」
「ですから身体も寒さ対策で」
「髭まで生えてか」
「そうして生きています」
「わかった、髭はな」
とにかくとだ、また言ったアブンだった。
「場所によっては女でも生える」
「そういうことです、ルーマニアではお洒落になっていた時もあったとか」
「お洒落かい」
「はい、そうです」
「それはまた驚いたな」
これまで以上にとだ、アブンは髭の話を聞いてさらに声をあげた。
「お洒落にもなってたのか」
「ルーマニアでは」
「それはまた驚いた」
「そうしたこともあります」
「いや、世界は広いな」
「全くですね」
ピョートルは笑いながら土産ものでよさそうなのを探しつつアブンに応えた。そして恋人の為にと言って幾つか買って行った。アブンは彼等以外の客の応対もして仕事が終わって夜になってだ。
夕食を作って共に食べた後でだ、妻のナビーにこう言ったのだった。
「今日ロシアから来た人と話したんだがな」
「テレビのスタッフの人達と」
「ああ、何でもロシアじゃ女でも髭が生えててな」
「本当ですか?」
「実際に見た」
このことも話した。
「薄かったがな」
「本当に生えていたんですか」
「そうだ、見て驚いた」
「いえ、女の人にお髭とは」
ナブーは驚きを隠せない顔で夫に応えた、食後のくつろぎの中で。
「それはまた」
「わしもまさかと思っていたがな」
「生えるんですね」
「寒いとそうなるそうだ」
「ああ、寒いからですか」
「そうだ、それでだ」
「そういうことですか」
ナブーはそれまで観ていたテレビをよそに夫に応えた。
「世の中凄いですね」
「全くだな」
「女の人にもお髭が生える」
「そうしたこともある、アッラーはな」
彼等の信仰の偉大な神はというと。
「寒い場所ではそうした守護もされる」
「女の人にもお髭を生やして下さり」
「寒さから護ってくれるのだ」
「そういうことになりますね」
「アッラーは実に偉大だ」
アブンはあらためて思った。
「暑い場所ではないが」
「寒い場所ではですね」
「それに相応しい守護を下さるのだからな」
「まことに偉大ですね」
夫婦で話した、そしてナブーは自分の口元に手を当ててそうしてそのうえで言ったのだった。
「私もロシアにいたら」
「生えていたな」
「そうなっていましたね」
夫にくすりと笑って言った、アブンはその妻の仕草を見て彼もまた笑顔になった。そこに髭がある様な温かさを感じて。
女の髭 完
2017・6・17
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