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弱い人間
第五章
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「フラッシュバックっていうかな」
「フラッシュバック?」
「夜になったらいつもいじめられていた時を思い出していたらしい」
 そうだったというのだ。
「ずっとな、それでストレスで拒食症になってな」
「トラウマから逃げたくて酒に溺れてか」
「毎晩相当飲んでいたらしいな」
「高校生なのにか」
「それでも家にあれば飲むだろ」 
 その酒がというのだ。
「それでだよ」
「あいつ拒食症になってか」
「アルコール中毒になってな」
「入院か」
「そうなったみたいだな」
「そうだったんだな、つまりな」
 ここまで聞いてだ、城太郎は苦り切った顔になって達夫に言った。
「いじめを忘れられなかったんだな」
「その通りだな」
「それでいじめから逃げようとしてか」
「食えなくなって飲みまくってな」 
 そしてというのだ。
「いじめもしていたんだよ」
「弱かったんだな、あいつ」
 詩乃はとだ、城太郎はこうも言った。
「本当に」
「そうだな、俺も完全にわかった」
「あいつがどう弱いってか」
「ああ、心が弱かったんだ」
「そうだな、それもとんでもなくな」
「そりゃいじめは辛いさ」
 いじめられていた時も思い出してもというのだ。
「けれどそれを克服出来ないっていうのはな」
「弱いよな」
「ましてや逃げようとして自分がいじめたり酒に溺れたり食えなくなったりとかな」
「どう考えても弱いな」
「枢みたいに弱い奴はな」
 それこそとだ、達夫は遠い目になって城太郎に話した。
「本当に惨めだな」
「そうだよな、誰も見舞いに行かないっていうしな」
「ああ、クラスの奴等も部活の連中もな」
 そのどちらもというのだ。
「見舞いに行こうって話もなくてな」
「実際に誰もか」
「いないんだな、そう思うとな」
「惨めなもんだな」
 城太郎は苦い顔のままこうも言った。
「本当に思うぜ」
「俺も同じだよ、だからな」
「見舞いにか」
「行くか?」
 城太郎に顔を向けて提案した。
「そうするか?」
「俺達がか」
「ああ、そうするか?」
 こう言うのだった。
「気になるんだったらな」
「そうだな、何かその話聞いたらな」
 やや俯いて沈んだ顔になってだ、城太郎は応えた。
「誰か行った方がいいとも思ったぜ」
「そうだな、じゃあ行ってみるか」
「俺達二人だけでもな」
「弱い奴ってのは寂しいのかもな」
 達夫はこんな言葉も出した。
「だから昔のことを思い出して苦しんでな」
「それで自分もいじめて強情になって酒に溺れてか」
「ああなるんだろうな」
 詩乃がまさにそれだというのだ。
「それだったらな」
「俺達だけでもか」
「見舞いに行ってな」
「話、聞いてやるか」
「俺あいつ好きじゃないけれどな」

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