第一章
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歌に生き愛に生き
男装の麗人、今でも魅力的な、この世のものとは離れた妖しい響きで以て世の中に伝わっている言葉である。
ジョルジュ=サンドはいつも黒い男ものの服を着ていた。そのズボン姿の彼女を見て人々はこう言うのだった。
「時代が変わったのかね」
「ああした服装をする淑女が出るなんてね」
「自由主義の時代にしても」
「男の身なりをする女なんてね」
「よく出たものだよ」
「進歩的かな」
肯定的な意見はこうしたもので否定的な意見になると相当なものだった。
「世も末だ」
「あんな格好を女がするものではない」
「女は女らしく」
「しかも夫がいる身で自由恋愛とやらに興じている」
「あんな女は認められない」
「絶対に許してはいけない」
とにかく賛否両論だった。だがジョルシュはどちらの意見も聞き流しその細面の涼しげな顔でこう言うだけだった。
「私は私。気の赴くままに生きるだけよ」
だから恋愛も楽しむ、そう言って音楽家のリスト達との恋愛を楽しんでいた。
その中でもショパンだった。ポーランド生まれのピアニストである彼の顔を見てすぐにこう言った程だった。
「貴方と出会えたことは運命ね」
「運命?」
「そう。人と人の出会いは奇跡よ」
黒い誘う目での言葉だ。
「だから貴方との出会いもまたね」
「運命だっていうんだね」
「その運命の出会いへの祝福に」
ジョルジュは自分のペースに引き込んでいっていた。ショパンはそれに気付かないままに彼女の話を聞いていた。
「歌わせてくれるかしら」
「僕のピアノで」
「ええ。貴方のピアノの演奏でね」
こう誘う笑みでショパンに言ったのである。
「そうさせてもらっていいかしら」
「僕はピアニストだよ」
ここから答えるショパンだった。既にジョルジュに魅せられているが自分ではそのことに気付いてはいない。
「それじゃあね」
「話は決まりね」
「うん、それじゃあね」
ショパンはピアノの席に着きジョルジュはその傍に立った、そのうえで彼女は彼のピアノに合わせて歌った。これがはじまりだった。
二人は交際をはじめ同棲さえした。二人の愛の営みは特にショパンにとって幸せなものになっていた。
ショパンはピアノに向かいながらその線の細い今にも倒れてしまいそうな顔でいつもジョルジュにこんなことことを言っていた。
「僕のピアノにここまで歌ってくれる人は他にいないよ」
「私だけっていうのね」
ジョルジュはこの時もショパンの傍に立っている。ズボンを履き凛々しささえ感じられるその姿で今日も歌っているのだ。
「それは」
「そうだよ。それじゃあね」
「また
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