第二章
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「本当にな」
「っていうと」
「もうお祖母ちゃん死んだのに一緒って」
「どういうことなのよ」
「イカリナだが」
その死んだ妻のことを言うのだった。
「一つ頼みがある」
「頼み?」
「頼みっていうと」
「埋葬せずにだ」
言うまでもなく土葬だ、キリスト教徒だからそうなる。
「身体に防腐処理をしてな」
「ミイラみたいに」
「そうしてっていうの」
「家に戻してくれるか、もうイカリナと話していた」
このことをここで話した、子供や孫達に。
「どちらが先に死んでもな」
「遺体に防腐処理をしてなの」
「そのうえでか」
「そうだ、家でこれまで通りな」
二人一緒にいた時にというのだ。
「二人で暮らそうと妻に約束していたんだ、だからな」
「それは難しいんじゃ」
「ちょっとな」
「そんなことしていいの?」
「問題ない?」
「司教様と話す」
自ら直談判するというのだ。
「わしがな」
「そうしてか」
「お祖母ちゃんとこれからもなの」
「一緒に住むか」
「そうしていくの」
「どちらにしろわしもあと少しで死ぬ」
九十歳だ、それならばというのだ。
「だからな」
「その間だけでも」
「お母さんと一緒にいたい」
「そうしたいから」
「頼む、金はある」
イカリナの遺体に防腐処理をするだけの額はというのだ。
「ずっと働いて貯金してきたしな」
「生活も質素だったし」
「それでか」
「お金もあるし」
「それで」
「そうだ、頼む」
こう言ってだ、シェラレフコフは子供や孫達だけでなく司教にも話してそうしてだった。イカリナの遺体に防腐処理をしてもらい。
そして彼女の亡骸を家に戻した、彼女は常に奇麗な服を着てソファーに座っていて微笑んでいた。
その彼女にだ、シェラレフコフは微笑んで挨拶をして声をかけていた。その彼の家に来てだった。
子供達や孫達は不思議そうにだ、彼に尋ねた。
「それでいいの?」
「幸せなの?」
「ひいお祖母ちゃん死んだのに」
「それでも一緒にいて」
「幸せなの?」
「ひいひいお祖父ちゃんはそれでもいいの」
「いいさ」
シェラレフコフは微笑んで答えた。
「わしはこれで」
「そうなの」
「幸せなの」
「お祖父ちゃんとしては」
「満足してるのね」
「とてもな」
実際にというのだ。
「わしは幸せだ」
「お祖父ちゃんが好きなら」
「それなら」
「私達はいいけれど」
「ひいお祖母ちゃんと一緒なら」
「わしは死ぬまでイカリナと一緒にいてな」
澄みきった、何の淀みもない声と顔での言葉だった。そこにあるものは何よりも純粋だった。
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