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星雲特警ヘイデリオン
番外編 星雲特警と怪獣映画
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に乗り込んでまで、彼らを嬲り殺す。それは確かに、最大多数の幸福を守るための、正義の一つではあったけれど――喧伝されていた綺麗事とは、程遠い景色だった。
 彼らという存在はこの地球において、「天が遣わした救世主(スーパーヒーロー)」として半ば神聖視されている節もあるが――当事者の1人である太?に言わせれば、買い被りもいいところである。

 それでも、確かに正しくはあったのだ。ただ、美しくも格好良くもなかっただけで、やらざるを得ないという背景は、確かにあった。
 そうと知りながら受け入れられず、抗っていた自分だからこそ分かる。綺麗事ではない、汚くて仕方ない世界にも……意義は、あるのだと。
 シンシアを守ろうと「正義」に逆らった自分だからこそ、視えるものがあるはずだと。

「……おん? なんじゃ、妙にスッキリした顔しおってからに」
「……いえ」

 その思いに至った彼は、憑き物が落ちたような表情で顔を上げ、館長に穏やかな笑みを向ける。
 そして、エンドロールの最後に「終」と映された画面を見つめ――口元を緩めるのだった。

「……やっと。やりたいことが、視えた気がするんです」

 ◇

「……不審」
「不審、とは?」
「……先ほどから、ずっと物思いに耽っている。義父に送る酒の銘柄のことか?」
「違う。……というかあの歳でまだ飲むつもりでいるのか、あの人は……」
「還暦を過ぎても杖が必要になっても、義父は何も変わっていない。至極不愉快。……で、結局何をそんなに逡巡している?」

 商店街から離れた、東京の大通り。絶えず車と人が行き交う、日常の景色の中で。
 運転手を務めている少女――倉城(くらき)ヒカリは「場末の映画館」の帰り道で、助手席に座る上官に疑問を投げ掛ける。上官の口数が少ないのは今に始まったことではないのだが、それにしても普段とは様子が違うように感じられたのだ。
 その機敏を見落とすような、浅い付き合いではない。永い年月の中で、命を預け合ってきたのだから。

「……さっき、変わった少年とすれ違ってな」
「変わった……?」
「年不相応な、眼をしていた」

 後部座席に座る身形のいい男は、目を背けるように窓の向こうへと視線を移す。

 ――年端も行かない少年でありながら、血と痛みと別れを知り過ぎた、帰還兵のような眼。それは5年に渡り平和を謳歌してきた、この星の市民としては余りにも奇特で、歪だ。しかもその首には、コスモビートルのパイロットの証であるスカーフがあった。

 矢城正也(やしろせいや)将軍は、そんな奇妙な少年の横顔を思い出し――暫し、物思いに耽る。

(……そう、あれはまるで……)

 あの貌はまるで。共に戦ってきた仲間達も、可愛がっていた子供も、何もかも喪い続けてきた―
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