番外編 星雲特警と怪獣映画
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る彼らから見れば、この星は枯れかけた井戸のようなものなのだろう。
太?は、それをよく知っている。現在の彼の保護者である軍の高官も、その状況は理解している。だが、軍拡の気運が高まりつつある世情の中では、資源の減少を押し留めることもできない。
それでも太?の素性を世間に明かし、説得力を得た上で地球の危機を訴えれば、世論を味方につけることも可能だっただろう。だが、それは太?の安全を気遣った蒼海将軍の思いに、反することになる。
そのジレンマを抱えていることも、彼が映画館に通う理由の一つであった。
――地球の資源という危難を知りつつも、何もできない。そんな苦悩を抱えた彼にとって、自分と同じ懸念を訴えるこの映画は、ある意味では救いだったのだ。
(コロル、ケイ。シンシア……)
ただ生きているだけなのに。殺されるために、生まれて来たわけではないのに。強者の都合で犠牲を強いられた、映画の怪獣に重ねるように。
太?は、亡き少年少女達の幻影を悼み、目を伏せる。
「はぁ〜あ。世の中、つまらなくなっちまったもんじゃのう。せめて、現実の樹林警備隊もカッコ良けりゃあなぁ」
「……!」
館長のぼやきに反応した彼が、ハッと顔を上げたのは、その直後だった。太?は真剣な面持ちで、への字に口を曲げた老人を見つめる。
「……そういえば、この映画に出てくる樹林警備隊って……実際に在った組織なんでしたっけ」
「おん? あぁ、そうじゃそうじゃ。イタリアが発祥の警察機関での。今は守備軍に吸収されて……確か、自然警備隊ってのに変わっとるんじゃと」
「自然警備隊……ですか」
「まぁ、変わったと言っても密猟者の逮捕やら環境汚染犯罪の捜査やら、やることは昔と変わっとらんらしいがの。……じゃが今は、軍事開発だがなんだかで、森をめちゃくちゃにしとる軍部のやり方に反するっちゅうんで、肩身が狭くてたまらんらしいぞ」
「そうなんですか……」
「じゃから、今は左遷された隊員の溜まり場になっとるって話じゃ。……映画みたいにマジメな隊員なんて、1人もおらん。情けないのう」
「……」
樹林警備隊、改め自然警備隊。この映画で語られる彼らの勇ましさと、その実態の間にあるギャップの凄まじさに、館長は深々とため息をついていた。
一方。太?は何か思いつめるように、口元に手を当てている。
――理想と現実は違う。本当のところは、そんなにいいものじゃない。
それは、太?自身が経験して来たことでもあった。
宇宙の平和を預かり、全宇宙の人々の安全を守る正義の戦士。そう謳われる星雲特警の1人だった太?は、その美辞麗句に隠された現実を、嫌という程見て来たのだ。
敵性宇宙人とあらば、女子供だろうと容赦なく抹殺し。10mもの巨大ロボット
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