人狩りの夜 2
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ンドの市民はみんなあんたに感謝してるぜ」
「それと、そっちのフードのにいちゃんもな」
「ペルルノワールに仲間がいたなんて、知らなかったよ」
人々は感謝の言葉を口にして陰惨な地下室を後にした。
「さぁ、行きましょうか……あ、ちょっとまって」
ペルルノワールが細いおとがいに指をあてて小首をかしげる。なにやら思案している様子だ。
「あなたの名前、まだ聞いていなかったわね」
「ああ、そういうえばそうだったな。俺の名は――」
「まって。わたしがつけるわ」
「つけるって……」
「あなた、こんなことしていて本名を名乗るつもりはないでしょ? どうせ偽名を名乗るならわたしにつけさせてちょうだい。わたし、人に名前をつけるのって好きなの」
「じゃあとっととつけてくれ」
「トンヌラ」
「意味はよくわからないが、とにかくマヌケな響きがするのでいやだ」
「言われてみればパッとしない名ね。じゃあ、もょもと」
「なんて発音するのかわからないから却下だ」
「たしかに言いにくいわね」
「ボロンゴもプックルもアンドレもチロルもリンクスもゲレゲレもモモもソロもビビンバもギコギコもなしだ」
「ゲレゲレには惹かれるものがあるんだけど」
「うむ、俺もだ。……て、ふざけているひまなんてないぞ。クェイドのやつが逃げたらどうする」
「すぐに決めるから少しくらい待ちなさいよ。ロートリッター、黒薔薇、ジャンヌ、天竜、D、パスカル――」
「なんなんだ、その一貫性に欠ける名前の羅列は! というかジャンヌって女性名だろ」
秋芳のコードネームが決まるまで、もう少し時間がかかりそうだった。
五〇メトラ四方、和室に換算して三〇畳近い広さの部屋の色調はワインカラーを基調にととのえられ、家庭用ではない本格的なサイズのビリヤード台や蓄音機、樫の卓上には象牙製のチェスセットが置かれていた。
貴賓室『鳳凰の間』。そこには主であるクェイド侯爵のほか、数名の貴族があつまっていた。今夜の遊興におとずれた貴族のほとんどが闖入者の手で再起不能にされたか、身の危険を感じて早々に退出していた。
この場にいるのは貴族の矜持が邪魔をして、襲撃者から逃げることを良しとしなかった者達だ。
「ええい、なんという醜態だ! 鼠賊の一匹や二匹に振り回されるとはっ」
クェイド侯爵は怒気もあらわに手にしたワイングラスを床にたたきつけた。権威権力権勢を異常に愛する人間は儀式や儀礼が予定通りにはこばないとヒステリーを起こすのだ。彼の精神には運動会の予行練習で行進がそろわないからと怒り、怒鳴り散らす。野蛮な体育教師と共通する部分があった。
「たかがコソ泥風情に避難しなければならぬとは……!」
「――この世の悦楽を愛してやまない道楽者の憩いの場。豪奢な空間
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